メガネの通信販売について


「通販で買ったブランドのメガネの腕が顔の横に食い込んでくる!
しかもほっぺまでレンズの端にくっつく。
これじゃあハイセンスなアイウエアが台無しだ…」

 「スポーツグラスとして取り寄せた度付きのサングラスなのに、
妙にズルズル顔からずり落ちてくる。
しかも自宅の近くの眼鏡屋はフィッティングできませんなんていう。
もしかして、たらい回しになるのでは…」

 「眼科で処方箋まで書いてもらって眼鏡を通販オーダーしたが、
見え方がぜんぜん変だ。
眼科医は『度数は合っているはず。眼鏡店に作り直させなさい』というけど、
またこれを荷造りして送るとなると…面倒すぎる。」

とまあ、メガネの通販にはこのようなトラブルがたまに見られるのですが、
そうと知らずにネットショッピングをしてヒドイ目にあい、
当店に品物を持ち込んでくるかたが意外と多いのです。

そこで私の父、眼鏡屋さん向けの技術教育もしている眼鏡士、岡本隆博が、
通販でメガネを買うことについての注意点を、多くの人に知っていただくために、
情報提供のホームページをお作りしました。

ある意味で特殊な買い物ジャンル、
「眼鏡やサングラスの通販」に興味のあるかたは、
失敗を防ぐためにも、事前にぜひお読みいただければと思います。
  
眼鏡店アイトピア    店員 岡本真行


ここから岡本隆博がお話します。
インターネットのサイトの中には
メガネを通信販売しているものがあります。
それに関する私の考えを申し上げましょう。

1.フィッティングはどうするの?

たとえば、サングラスを通信販売するとすれば、
フィッティングをどうするのか?ということが問題となります。

たまたま初めからそのユーザーにうまく合っていて、
フィッティングをしなくても良さそうなフレームなら特に問題はないのですが、
そうではない、ごく普通のサングラスなどでは、
送られてきたままだと、顔に掛けたときにゆるゆるでずり落ちやすいとか、
耳のあたりが痛くなってイヤになるとかいうことが起こり得ます。

そういうことが起こったとしても、
通販で買ったものは、売り手のところへ送り返してフィッティングしてもらうというわけにはいきません。

となると、近隣のメガネ店へ行ってフィッティングを依頼することになります。
メガネ店は、基本的には、自店で販売したものでなければ、触りたくないものです。

なぜならもしフィッティングをしていて、
予期せぬトラブル
(塗ってある塗料が少し剥がれたとか、鼻あての金属足が折れてしまったとか)
が生じた場合に、責任を問われかねないからです。
また、その商品の部品などを取り寄せることができない場合もあります。

それでも、
ここで親切にしておいたら、この人は次に自店でメガネを買ってくれるかもしれない、
と思えば、フィッティングの依頼に応じることもあるかもしれませんが、
サングラスの場合には、そういう可能性は少ないので、まず、やりたくないものです。

ですから、
通販で買ったサングラスをどこかのメガネ店にフィッティングに持ち込んで
承諾してもらえる可能性はあまり高くないし、
「やりましょう」ということで、フィッティングをしてもらっても、
それで満足がいくかどうかは分かりません。

なぜなら、実際のところ、
フィッティングの上手な店(眼鏡技術者)は少ないし、
しかも、フィッティングだけで料金を請求はしにくいので、
たいては無料でいい加減にやってお茶を濁すということになりがちです。

とは言っても、通販で買ったサングラスを、
フィッティングなしでまったく違和感なく掛けられる場合も、ないとは言えませんから、
通販でのサングラスの販売を私は否定するつもりはありません。

ただ、
その点でのある程度のリスクがあることは知っておいた方がよいと思うのです。

そして、
度付きのメガネの場合には、サングラスよりも掛けている時間がはるかに長いでしょうから、
フィッティングの面で合っていないことによる失敗感の大きさは、サングラスのときの比ではないと思います。

2.枠のみの通販の場合は?

度付きメガネの通販の場合には、
大きく分けて枠のみの販売と、
レンズも入れての販売とに分かれますが、
それぞれに問題点があります。

枠のみを販売する場合には、
いま述べたフィッティングの問題の他に、
度数がわからないのに、あるいは、顔の大きさやタイプも分からないのに、
はたして本当にそのサイズやその構造のものでよいのかということを
確認しないままでの販売になってしまうということです。

まず、その枠に入れるレンズの度数が相当に強ければ、
大きめの枠ではレンズが非常に分厚くなってしまってかっこう悪くてダメ、
ということがあります。

最近では強度薄型のレンズもいろいろ出ていますが、
それでもやはり小さめの枠の方がレンズは薄く軽くなるものです。

それから、度数は特に強くないというのであれば、
枠の大きさとレンズの厚みに関してはさほど留意しなくてもよいのですが、
顔の大きさ(横幅)と
枠の大きさ(横幅)

とのバランスがよいかどうかという問題が残ります。


仮に枠の玉型サイズである程度分かるとしても、

鼻幅
(左右のフチの間隔)


が変わると全体の横幅も変わりますし、

天地サイズ
(レンズの上下幅)


が違うとやはり大きさの感じが変わって見えます。

そして、ウデの長さが長すぎたり短すぎたりしないかどうかというチェックも、
通販ではできません。

通販で買ってみて、単に想像していたのと感じが違う、ということでしたら、返品もできるのでしょうが、
どこかのメガネ屋さんでレンズを入れてもらって枠のフィッティングもやってもらって、
いろいろにやってみた結果、やはりうまく行かない、というのであれば、
枠も初めの状態から変形してますから、返品もきかないでしょうし、
第一レンズだけ残ってもしかたがありません。

以上のようなことで、
枠のみの通販も、メガネ店でいろいろ確認してから買う場合よりも、リスクは大きいと私は思います。

3.度付きレンズを入れての販売なら?

自分が現在使っているメガネの度数を通販業者に送るとか、
あるいは眼科で眼鏡処方箋を発行してもらって、
それを業者に送るという方式で度付きのメガネも通販で買える場合があります。

自分のメガネの度数のデータを送る場合、たまに生じることですが、
同じ度数でも枠が変わると見え方が違ってくることがあるということです。

またレンズの種類が変わることによる見え方の違いが生じることもあります。


それらは主として

レンズの前への傾きや

上から見たそりの角度、


目玉からとレンズまでの距離(頂間距離とか、装用距離とか言います)、

レンズの大きさ、

レンズのカーブ
(表面の丸み)

などの違いによって生じるのですが、
事前の予測は非常に難しく、作られたメガネをかけてみて初めてわかるものです。

眼鏡店で前のメガネの度数を調べて
(あるいは、眼鏡店の記録を見て)
同じ度数で新たにメガネを作る場合にも同様のリスクはあるのですが、
その場合には事前に何らかのチェックが可能ですし、
そういうことが起こって相談をもちこまれたら、
その原因を探って適切な対処が可能なことが多いわけです。
しかし、通販ではそういうことは無理でしょう。

また、眼科処方箋で作る場合には、
できたメガネで見え方が思わしくない場合に、眼科へ行ってもラチがあかないことがよくあります。

仮に眼科でその原因がわかって、再処方してくれた場合は、
また検査料が必要ですし、レンズ代も本人の負担となってしまいます。

中には、
そういう場合のレンズ代は業者が負担する
ということにしている通販もあるかもしれませんが、
その眼科による再処方の度数で今度はうまくいく、とはかぎりません。

眼科は、眼鏡疾患に診療が主体で眼鏡処方は得意ではないのです。

弱視とか、
調節まひ剤を用いてこそ可能な検眼によるものとかの、
特殊な医療としてのメガネ以外の眼鏡処方は、
ウデのよいメガネ店の方が一日の長があります。

ところがメガネ店では、
自店でメガネを作らせてもらうことを前提とした眼鏡処方しかしませんので、
単に眼鏡処方だけを請け負うということはまずありません。

そういうことで、
度付きのメガネを通販で買うことについても、
やはり眼鏡店で普通に度付きメガネを買う場合よりも、
リスクは増えると私は思うのです。

ただし私は、
メガネの枠のみや度付きの通販が、
つねに失敗に終わると言いたいのではないので、そこのところは誤解がないようにお願いします。

4.低レベルの眼鏡店と比較すると

通販よりも、きちんとした専門店でメガネを求めた場合のほうが色々な点でリスクが少なくなることは、
おわかりいただけたと思いますが、試みに次のような比較をしてみましょう。

通販で、いま使用中のメガネと同じ度数で、度付きメガネを購入する場合と、
専門的なアドバイスがないセルフサービス的な感じの技術レベルが低いメガネ店で、
現在使用中のものと同じ度数で作る場合とを比較してみますと、

通販利用では、時間がない人には便利であるとか、近隣の店には自分の気に入ったものがない、
という場合なら有利ですが、その枠と顔の物理的美容的適合性の確認がないままに
購入に踏み切らねばならないろいう問題点があり、

通販を利用しなければ、買う前に実物を確認できるということや、何かあった場合に相談できる
(ただし、解決してくれるかどうかはわかりませんが)
という有利性があります。

そして、枠に対する専門的なアドバイスがない点、
フィッティングらしきものがない点、
見え方の具合が悪い場合の解決の可能性が少ない点、
などは両者にあまり差はありません。

眼鏡士の立場からなのですが、結論として私は次のように言いたいです。

やむを得ないとき以外は、メガネの通販は利用しないのが賢明である。
利用する場合には、枠のみの購入として、
通販業者に「フィッティング料金分の値引き」を要求し、
その値引き分を、レンズを入れてもらう眼鏡店に渡して
しっかりとフィッティングをしてもらうのが、比較的ましなメガネ通販利用法である。

次のページは、

眼鏡レンズの中心点

です。

このページは一般のかたには、少々難しいかもしれません。
眼鏡のレンズには、実は目に見えない中心点があり、
もしも眼鏡を作るとき、その中心点と、大きくずれる位置にお客様の目の中心点がくるようなことになった場合、
「おかしいな、度数は合っているはずなのに、何となく前の眼鏡より目が疲れやすい気がする」
ということになります。

眼鏡店に置いてある「レンズメーター」という器械で、ちゃんと測定してみますと、
中心点を合わせていないことがすぐにわかったりします。

専門的な呼び方としましては「光学中心」や「アイポイント」などといいます。
くわしくは、眼鏡レンズの中心点のページをごらんください。

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