調製!メガネ職人の技術とは?
(フィッティングについて)「フィッティング調整」とは…
メガネのワクをあなたがお店で選んだ、その後に行なわれます。
メガネの形を変えて、あなたのお顔にジャストフィットさせる職人技。
それはメガネ店の親切さの判別法でもあるのです。
あなたが「良いのでは」と思っている眼鏡店に対して、
「あること」を試してみる機会があれば、そのお店の本当の「親切さ」が分かります。フィッティング…眼鏡士の親切度の判別
たいていのメガネ店では、
当店へもときどき、
その店で買ったメガネのフィッティングだけでなく、
他店で買ったメガネのフィッティング(かけ心地調整)も、
いやがらずにやってくれます。
ただし、その作業に多少のリスクがありそうな場合には
「壊れても当方では責任は持てません」
という但し書きは言われるかもしれません。
また、他店購入のメガネのフィッティングに対して、
調整料金を請求される場合と請求されない場合があると思いますが、
それを請求しないお店の方が親切だ、とは一概にはいえません。
なぜなら、
タダでする仕事には真剣になりにくいのが人情の常であり、
きっちりとした仕事をするには
料金を頂く方が熱を入れてやる気になるというのが
実際のところだからです。
それはともかくとして、
他店購入の枠でも、いやがらずに調整をするというのが、
その店の親切度をみるバロメーターだ……
と私が言いたいのではないのです。
それは、いやがらずに引き受けることにより、
次のメガネを自店で買ってもらおういという、
いわば販売促進策の一つだとも言えるものにすぎないのですから、
商売として考えれば、引き受けることはごく普通のこと、というか、
商売上は、いやがらずに引き受けるのが得策であることは
たしかなのですが、ではそういう店は、フィッティングの腕前はどうなのかと
言いますと、これは、反比例するのではないかと、私は思っています。
すなわち、自分のフィッティング技術のレベルを客観的にわかっていて、
そこそこの自信を持っている眼鏡技術者なら、
たとえば、他店で購入されたメガネのフィッティングを、
ホイホイと気安くする気持ちにはなりにくいものです。
その理由はいろいろあります。
・自分の技術にはずいぶんと元手がかかっている…
そのことに技術者は「プロ意識」をもたなければならないと私は思っているのですが、
その手前、これを「他店で購入されたメガネ」に対して
無料で提供してしまうと、いろいろと不具合が生じてきます。
・まず、それを有料で、ということにしたら、
たいていのお客さんは理解をしてくれません。
その際、「技術者としてのプロ意識と倫理観」についてお客さまに説明するのは
相当に長くなりますし、わかってもらえるという確証もない…
ならば、いっそ「他店購入のメガネのフィッティング」に関しては
お断わりする、ということに決めて置いた方がよいと私は思います。
・さらに、他店のメガネだと、
枠の材質が不明な場合もあるうえ、
販売日が不明なのでどれだけ弱っているか、
といったことがよくわからないことがあります。
結果、フィッティングによってロー離れなどの予期せぬことが起こった場合、対処しにくい。
万が一のことが起こった場合、私自身も困りますし、お客さんも非常に困ることになります。
・そもそも、メガネは販売した店が最終メーカーなのだから、
フィッティングなどの「そのあとのフォロー」も、販売した店が取る、
ということに決めておき、業界の不文律とすることが理想だと感じるのです。
その店ではメガネを買っていなくても、
他店で買ったメガネのフィッティングを気軽に無料でやってくれる店で、
本当にきっちりと快適な掛け心地にしてくれる店は
非常に少ないと思っていただいたらよいと思います。
それでは、私の場合、
他店購入枠のフィッティング依頼に対しては
どのように対応しているかということに関しては、
「他店購入でのメガネに関するご相談」
をご覧ください。
前置きが長くなってしまいました。
では、
その店が本当に親切心を持っているかどうか、
まじめかどうか、
メガネの調製ということに関して正しい見識を持っているのかどうか、
ということを知る方法は何なのかということの答えを書きますと、それは、
「そのお店で、枠(メガネフレーム)のみを買った場合に
フィッティングをしてくれるかどうか」
ということなのです。
他店で買った新しい枠を持ってこられてレンズだけを入れてほしいと
おっしゃるかたが来られますが、
その場合にフィッティングをしてあったものを見た記憶が
私にはありません。
しかし、考えてもみてください。
フィッティングなしで枠を売るのであれば、
通販と同じことになってしまいます。
当店でも枠だけをお買いあげいただくことはありますが、
その場合、必ずフィッティングをします。
そして、快適な掛けごこちになるかどうか、
角膜頂点間距離(装用距離)や前傾角が適正になるかどうか、
などの確認をします。
それがわからぬままに枠だけを販売するというのは、
マジメではない、親切心が足りない、メガネのフィッティングについての見識が足りない、
というのが、その理由だと私は思います。
もしも、
「いや、レンズを入れる加工で
枠のフィッティング状態が変わることもあるので、
フィッティングはレンズを入れる店でやってもらえばいいのです」
と言うメガネ店の販売員がいたとしたら、それは間違いであり、無責任です。
その枠ではまったくマージンを得られない店の人がなぜ、
その枠に関して多少のリスクをおかしてまで
フィッティングをしなければならないのでしょうか。
もしも、レンズを入れてからフィッティングのようなことをしてもらっても、
掛け心地がよくならなかったら、その責任は、
・枠を売ったお店
・レンズを入れたお店
の、どちらのお店にあるのでしょうか。
ですから、その店が、
とにかく売ったらよいのだ、掛け心地なんて他店任せでよいのだ、
という発想の無責任な店なのか、そうでないのか、ということは、
「枠のみの販売のときに、
顧客からフィッティングをしてほしいと言われなくてもやる店かどうか」
ということで判断できると私は言いたいのです。
それで、このことを踏まえて、
その店がどちらの店であるかを知る方法を書きます。
まず、
「枠やサングラスの通販をしている店は避ける」
という方法が一つあります。
それから、通販をしていない店なら、
次のように尋ねてみたらどうでしょう。
「この枠だけでも売ってもらえますか」
すると、例外なく、
「はい。枠だけお求め頂いてもけっこうです」
という答えが帰ってきます。
(ただし、特殊な加工を必要とするものは別ですので、
ごく普通の枠を指さして、そう尋ねてみたらよいわけです)
それで次にもう一つ尋ねます。
「枠だけ買っても、フィッティングをしてもらえますか?」
すると相手は、たいていは、一瞬凍り付くでしょう。
なぜなら、今までにそんなことを言われたことがないからです。
それで、相手が新米の店員なら、あなたを待たせて店長に尋ねにいくでしょう。
新米の店員でなければ、すぐに何らかの答を言うでしょう。
もし、
「いえ、レンズ加工によって枠の形が変わることもありますから、
フィッティングはレンズを入れたあとで云々……」
と答が返ってきたら、アウトです。
それは、楽に売上げだけを得たいという心理であり、
面倒なことを避けているわけだし、
フィッティングに関する正しい見識を持っていない人の答えだと見なしてさしつかえありません。
そうでなく、
「は、はい……。やらせていただきます」
と少しあわてた感じで答えのであれば、どうでしょう。
それはフィッティングを断る店よりもまだマシですが、
これまでに進んで枠だけの販売のときのフィッティングをやったことがないから、
そういう反応になるに違いありません。
そういう店も、
ホントにまじめでお客さんのことを考えた販売をしているとは言い難いと私は思います。
普段から、枠のみの販売でも、
そのお客さんの立場にたって仕事をするのであれば、
当然ながらフィッティングをしてその枠をお渡ししているはずですから、
もしも、そういう質問を受けたなら、即座に迷わずあわてず
「はい。もちろんです」
と答えられるはずなのです。
メガネ屋経験30年の私が見て、
フィッティングをきちんとできる店(眼鏡店の人間)は非常に少ないです。
ですから、
たとえ枠だけでも自店で買って下さったお客さまや、
自店に対して1万〜3万ほどの売上げをくださったお客さまに対して、
フィッティングは他店で、とは到底言えないというのが私の気持ちです。
本当は、眼鏡処方も上手な店はさほど多くないので、
レンズも自店でお入れしたいところなのですが、
それにはお客さんの事情というものがあるでしょうから、
そこまでは言いません。
でも、枠だけお買い求めのお客さんといえども
立派な自店のお客さんなのですから、
そのかたにフィッティングなしで、
(掛けてもらってどういう状態かを見ることもせずに)
メガネを売る店が実に多いという現実は、
同じ業界にいる人間として情けなく思います。
「当店はお客様本位で……」
とかなんとか、口では何とでも言えますが、
実際にフィッティングの重要性を正しく認識し、
お客さんの立場にたって考えれば、
たとえ枠のみでもノーフィッティングで売るはずがないと思うのです。
枠のみをフィッティングなしで販売するというということは、
そういう宣伝文句と矛盾した行為だと言うほかはないと、
私は思います。
(参考実話)
もう10年近く前のことです。
他店購入で、腕に超弾性の合金を用いた枠のみを持ちこまれて、
「これにレンズを入れてください」
とおっしゃったかたがおられました。
メインのフィッティングはレンズ加工の前におこなうべきものですから、
レンズを入れる前にフィッティングを試みたのですが、
腕の形が当方の意のままにならず、
どうにも掛けごこちの調整がうまくいきません。
こめかみを圧迫しないでおこうと思って腕を開きぎみにすると、
腕の先が耳の後ろを抱き込む力が出ないのでずり落ちやすくなり、
こめかみを圧迫すると、これまたメガネ全体を前に押し出す力が生じてダメなのです。
それで私はお客さんに、
「非常に軽いダミーのレンズが入っている状態でこの調子ですから、
度のあるレンズを入れるともっとずり落ちやすくなります。
これは買った店へ行って枠を替えてもらったほうがいいですよ」
と申し上げました。
お客さんは、がっかりた様子で当店を出ていかれました。
そのお客さんは当店には戻ってこられませんでしたが、
もし、フィッティングは加工の前にという原則を知らず、
加工のあとでフィッティングをする店がこれを受けた場合にどうなったでしょうか。
あるいは、フィッティングなど、もともとほとんどしない店がこれを受けたらどうなったか……、
と考えると、フィッティングなしで枠のみを購入することのリスクを
よくご理解いただけると思います。
なお、超弾性の腕というのは、
よほどうまく設計された形状を持っていない限り、
ほとんどまともなフィッティングはできません。
たとえば上から見て、腕が直線的であったりする場合は、
どうやってもうまくいかない場合が多いです。
そういうフレームは実は、
たまたまフィッティングなしでもうまくいったらもうけもの、
というシロモノなのです。
そんな、
「フィッティングができなく、人によっては掛け心地がどうにもならない」
という、超弾性の腕を持った枠を多く在庫し、
それを積極的に勧める店というのがもしあるとすれば、
その店はまじめさの不足した店だと私は思います。