遠近累進メガネは眼科処方に向くか
岡本隆博

増えつつある「遠近累進メガネ」

高齢化社会の進展にともなって
メガネにおいては遠近累進メガネの比率が
年々高まってきている。

では、眼科で、遠近累進のメガネの処方を的確に
できるのであろうか。

下記に紹介する記事は、その問いに対する
ひとつの回答であろう。

http://www.meganehamaya.biz/gankyou-shohou.html

なお、この記事にもあるように、
多くの眼科では、単に遠く用の度数と近く用の度数を
決めて、それでもって遠近累進を作ってください、
という指示を書いた処方が多いのであるが、
そういうやりかただと、結果において満足できない
ことになる蓋然性が強い。

たとえば、この記事のおける遠用PDと近用PDは
2mmの差だが、そんなおかしな数値で
遠近累進をつくることができると、もしも、この眼科が
考えているのならば、眼鏡レンズや眼鏡処方については
相当に低レベル(それは、わが国の眼科の平均レベル)
なのである。



眼科で遠近累進の装用テスト?

しかし、眼科の中には、一種類あるいは何種類かの
遠近累進のテストレンズを備えて、それを用いて装用テスト
をして、遠近累進の処方箋を発行するところもある。

それなら大丈夫なのか、と言えば、それも実はかえって
なまじっかな方法であると私は言いたい。

理由は下記のとおりである。

1)もしも、その処方度数を得るのに使った遠近累進の
種類がわからなければ、かえってまずい。
なぜなら遠用度数や加入度数が同じでも、累進帯の
長さが違うと、見え方はかなり違ってくるのだから。

2)仮に偶然、その眼科のテストレンズと、眼鏡店で作る
遠近累進レンズの累進帯の長さが同じでも、
ハードタイ、ソフトタイプ、の違いによって、見え方が
違ってくる。

3)上記の2つの条件が仮に偶然に一致したとしても、
累進の度数を決めたときの
テストレンズの角膜頂点間距離が不明であるし、
アイポイントの高さも不明なので、
その条件では累進メガネをうまく調製できる
とは考えにくい。

4)また、中には、装用テストに使った
累進レンズの銘柄を明記してある処方箋があるが、
店によっては、そのレンズを扱っていなくて
そのレンズについての情報が得られない場合もある。
銘柄を書くよりも、装用テストに使った累進レンズの
累進帯の長さを書いてあるほうがまだましであるが、
そういう処方箋はまずない。




こんな眼科もあるが

東京の梶田眼科のHPから引用する。

http://www.kajitaganka.jp/shohousen.htm
(2014.12.28現在)

(引用はじめ)

《 眼鏡店様へのお願い 》

累進屈折力レンズは同規格のレンズでも、
レンズ銘柄によって装用感が大きく異なることがあります。

当院では十分な時間をかけて試し装用を行って処方し、
試し装用に使用したレンズ銘柄を処方箋に記させていただいております。
処方箋に示しましたレンズ銘柄以外で作成される場合には、
作成されるレンズ銘柄のテストレンズを使用して試し装用を行っていただき、
装用に違和感がないことを確認してから、作成して頂き
ますようお願いいたします。
もし、作成予定のレンズの試し装用で違和感が生じる場合には、
梶田眼科に戻して頂きますようお願いします。

【 当院で使用しているテストレンズ 】

東海光学:  ベルーナクレス15、ベルーナレゾナス13、ベルーナデセオ13
バリラックス:ディフィニティ14mm、フィジオ、エリプス9mm、パナミック
HOYA HO:  YAラックスFD-14、P-1エンブレム、内面屈折力10mm、
内面屈折力12mm、サミットプロ、タクト、レクチュール
ニコン:   プレシオダブル14、プレシオダブル12、プレシオパワー13mm、
プレシオライフ、プレシオアイ13、プレシオアイ15、ソルテス、
ソルテスワイド、プレシオホ−ム&オフィス、リラクシー、
リラクシーライト、ファーストステップ・アイ

   それぞれのレンズに特徴があり、患者さんの眼に合う合わないがあります。

(引用終わり)


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この眼科の処方箋を受けたメガネ店が、
自店で見え方を確認をしてみたい場合に
レンズの銘柄がわかっただけでは、かなり不十分なのであり、
累進テストレンズの角膜頂点間距離、前傾角、
アイポイントの高さなどが、特定されなければ、
眼鏡店の装用テストにおいて、眼科で累進の銘柄と度数を
決めたときと同じ光学的な条件を再現することは
不可能なのである。
であるから、仮にこの眼科の累進レンズの処方箋に
書いてあった銘柄のレンズが、その処方箋を受けた
メガネ店にあったとしても、処方度数で試しに見てもらって、
はたして眼科で見たときと同じ見え方になるかどうかは
わからないのである。

 
* この場合、たとえば、角膜頂点間距離は12mm、なんて
   建前を言ってもしかたがない。なぜなら、眼科の装用テストで
  それが12mmであったかどうかという確認はまず無理だからである。



多少のリスクは残る

また、これは眼科処方に限らないが、累進レンズの装用テストに
おいては、たいていの場合、球面レンズ、乱視レンズ、
累進レンズの3枚を眼前に装用して行なうのだから、
実際のメガネとは光学的な条件が完全に一致するはずがなく、
調製されたメガネにおける見えかたにおいて、
ユーザーが不満を感じる
多少のリスクは避けられないのである。

しかし、そういう「不一致」をなるべく少なくするには、
眼鏡店で、使い慣れた累進レンズを使うというのは
一つの有力な手段であり、
眼科から指定された、使い慣れないレンズでメガネを
作るのは、そういうリスクを大きくする可能性はあっても、
リスクを少なくする可能性はほとんどないと
私は言いたい。

なので、一部の眼科の累進の眼鏡処方箋
における「おせっかい」「過剰サービス」とも言える
「累進の銘柄指定」などは、メガネ店にとっては
いわばありがた迷惑な話であり、
このサイトの基本的な趣旨にしたがって言えば、

眼科医がもし、何らかの理由で
「この人の眼に合う累進眼鏡は、
メガネ屋には上手な処方は無理。
自分の上手な処方が必要」だと思えば、
遠用度数のみを書くにとどめ、加入度数や
レンズの種類については眼鏡店にまかせる、
という方法がよいと思う。

なお、本稿の最後に誤解のないように述べておく。

私は「遠近累進の処方は、常に眼科よりもメガネ店の
方が上手にできる」と言っているのではない。

遠近累進に限らず、眼鏡処方の技術レベルは
眼科でもメガネ店でもピンからキリまであるのだが、
少なくとも、責任の一元化という点では眼科は関与
しないのがよいのではないでしょうか、と言いたいのである。

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