他店でご購入のメガネに対する調整


他店でお求めのメガネの掛け具合などが悪くて、
当店に対して調整を求めて来店されるかたが、けっこうおられます。


そのご依頼があった場合、
先ず私はお買い求めのお店へ行かれたのかどうかをおたずねします。

まだ行っていないとおっしゃる場合には、
まずそちらへ行っていただくようにお願いします。



電車で30分くらいのところでも、
まず、そこへ行ってくださいと申し上げます。

メガネというものは調製販売した店が最終メーカーですので、
アフターケアーは、販売した店がするのが基本だからです。



そのメガネの枠の材質やレンズのことも分かっている店が、
アフターケアーをするのがもっとも良いのです。

中には、
「一式5000円の店で買ったのだけれど、
あんな所は調整もへたなので初めから期待していない。
だから行く気がしない、オタクでやってよ」
などとおっしゃるかたもおられます。

そういうかたには私は
「それでしたら、当店では調整はお断りします。
どこか他のお店へ行って調整を頼んでみてください。
それでもだめだったら、
その眼鏡はもうあきらめて使うのをやめても損害も大したことがないですから、
また新しくちゃんとした店でちゃんとしたメガネをお求めいただいたらいかがでしょう」
と申し上げます。

それで、
「買った店へ2回も行って調整してもらったが、まだうまくいかない」
とか、
「東京で買ってから大阪へ引越をしてきて、買った店へは行きにくい」
とかおっしゃる場合には、
まんざらそのかたの勝手な依頼だとも言えませんので、
では、少しはお力になりましょうか、ということになるのですが、

調整作業にかかる前に、
次の「お約束」を読んでいただいて、
ご承諾をいただいてから調整作業に入ります。



他店でお求めのメガネを調整させていただく場合の5つの条件


「5つの条件」


1)調整作業により、
メガネに破損や傷つき変形などの不具合が起きて、
外観が多少悪くなったり、使用不能になったりした場合に、
当店は責任をとれません。

2)当方が調整をかなり行なっても
お客さまがなかなかご満足いただけない場合に、
当方の判断で調整作業を打ちきる場合があります。
また、調整中に他のお客さまが来られた場合に、
そちらのお客さまへの接客対応を優先し、
それまでの調整作業を中断して、
30分〜1時間後にまたおいでくださいと申し上げることもあります。

3)調整料金は、
お客さまのご満足度とは関係なく、それに費やした手間の量により、
1000〜3000円程度で、調整が終わってから当方の判断により金額を申し上げます。

4)調整が終わって、あとで、あるいは、後日にまた調整に来られました場合でも、
調整料金はまた申し受けます。

5)同じお客さまに対する他店購入のメガネの調製は、
今回ご持参のメガネを最後とさせていただきます。


*上記のことをご了承いただきましたお客さまにのみ、
他店でお求めのメガネの調整をさせていただきます。




「5つの条件」の解説


1)は当然です。
いまよりもおかしくしないで、しかも、きちんと調整をしてほしい、というお気持ちはわかりますが、
そう言われてしまうと、私たちはそのメガネに手を出せません。
他店のメガネの場合、材質がよくわからないものであることもありますので、
調整作業中にどんな不足の事態が起こるかもわからないのです。
また、中には「おかしくならない範囲でやってよ」とおっしゃるかたもおられます。
その気持ちはわかりますが、
「おかしくしないつもりでやるのは当然で、
それでも、おかしくなってしまうことがあるので、
そういう依頼には応じられないのです。

2)は、非常に神経質な人の場合、
いくら調整をしても、なかなか満足していただけないことが多く、
自店のお客さまに対する技術的作業や販売が主であるわれわれは、
そういうかたにいつまでもお相手をしていられないからです。

3)この作業はいわば、
病気やケガの状態となっているメガネに対する「治療」ですので、
結果がどうなるかは、神様しかわかりません。
患者さんが満足のいく状態になることもあれば、
そうはならない場合もあります。
ただ、実際には「こりゃあ無理かな」と思えば、引き受けませんので、
作業をしたらある程度はご満足いただけることが殆どです。
しかし、100%満足、とはいかないケースも多いものです。
それと、この種の調整は時計やカメラの修理とは違って客観的な「OK」の判断基準がなく、
それがうまくいったかどうかというのは、あくまでも使用者の自覚的な判断で決まるのですから、
誰にでも常に良い状態にできる、ということは先ず無理なわけです。
神経質なかたは、いくらやっても満足されませんから。
ですので、こういう職務においては、成功報酬ではなく参稼報酬、すなわち、
相手の満足度には関係なく。費やしたテマヒマによって料金をもらうのが合理的なのです。
いや、満足できなければ金は払えない、というおっしゃるかたが、もしおられたとしたら、
私はそのかたにお尋ねしたいです。
「あなたは、満足できなければ医療機関に対してお金を払いませんか」
あるいは
「足や身体をモンでもらって、まだ疲れがとれないからと言って料金を払うことを拒みますか」
と。
それに対してもしも
「医師や柔道整復師は国家資格でその実力が保証されている。
メガネ屋はそうではない。だから医療とメガネ屋をいっしょにはできない」
とおっしゃるのならば、私は
「では、あなたの具合の悪いメガネの調整を、他店で購入されたものでも、
まったくどこも損ねずして満足がいくように調整しますと約束してくれるメガネ店を探してください」
と言うほかはありません。

4)これも当然です。
メガネに対する治療ですから。
一度目の治療での結果がはかばかしくないから、
2度目の治療は無料サービス、などという医療機関は聞いたことがありません。

5)は、また次に別の店でメガネを買ってこられて、
当店に調整だけを依頼して来られてはたまらないからです。
この5)は、次のメガネのご購入は当店でお願いします、
ということを暗に申し上げているわけです。



なお、
自店の近所でぶつかって、メガネがひどく曲がってしまった。
とうてい掛けておれない、なんとかしてもらえないか、
というような緊急性のある場合には、
これに対する調整を断るのはまったく人道に外れます。
それこそ「義を見てせざるは勇なきなり」です。
勿論引き受けますが、ただし、その種の調整はリスクが大きくなります。
それゆえに、こういう5つの条件を書いたものは見せませんが、
1)と3)についてのみ、口頭で言って、了承を得てから調整に入ります。



なお、メガネ屋としての商売だけを考えるのなら、
下記のAかBのどちらになると思います。

 A.上記の1)のことは言うが、タダで引き受けてテキトーにやっておく。
少し調整してみて、まだ良くないと言われたら
「このメガネは元々お客さんには合わないものですから、このくらいにしかなりません」
と言ってしまえば、それでおしまいです。

 B.他店購入のメガネには関わらない。

 上記のAは多くの量販店などがやることで、
頭から断って嫌われてしまうということは避ける、
でも、大したことはしないで、話のついでに新しいメガネの購入を勧める、
という方法で、その目的で、チラシなどに
「他店様のメガネの調整でもお気軽にご持参ください」と書いて、
とにかく新規客を増やそうということをする店もあります。
これはまあ、商売第一の店ですね。

 自分の調整技術にいくばくかの自信を持っていて、
それをきっかけに別のメガネを売ろうという下心もない人なら、
タダでそれを発揮する対象に人物(メガネ)をわわざ募集する宣伝なんてするわけがないのです。

 他の医院にかかっておられるかたでも当院へおこしくだされば、無料で診療をします、
と宣伝する医師がいないのは、
そういうものを無料ですると違法性が濃い行為になるということもありますが、
そんな宣伝で自院へ来た人に対して、いま具合の悪いところは適当にすませて、
さらに検査をして別の悪いところを指摘して治療を勧めて医療費を稼ごうなんてことを考える医師がいないからです。

 それに対して上記のBは、
そんなものを引き受けても大した収入にはならない、
一生懸命やっても、有料となると渋い顔をする人もいる。
それに調整には常にリスクが伴う。
自店で売った物ではないメガネに対してリスクを負って調整作業をして、
壊したとか傷がいったとか何か言われたらばかばかしい。
だから初めから引き受けないのがよい、とする考え方です。

 このBの店の場合、
Aの店のような下心はないにしても、
困っている人に助けになろう、という姿勢が見られません。
ただ、目先の損と面倒さから逃げるだけです。



 しかし、自分は「眼鏡士」という「士」すなわち専門職であるということを考えると、
専門職であれば、単なるサービス職ではないのですから、
「正当な事由がないかぎり、依頼者からの依頼は断らない」
というのが筋なのです。

 そして、もちろんタダ働きはしませんが、
いわゆるボッタクリもしないのが専門職の誇りです。

 それでこそ
「私利私欲に捕らわれず自己の専門的能力でもって公益に奉仕する」
という専門職の使命に添うやりかたなわけです。

 たとえば、専門職中の専門職である医師が、
他の医院で治療を受けて満足できない患者が自院へ来たときのことを考えたら、
上記の5つのうち、5)以外は、すんなりと理解できると思います。
5)は、われわれが専門職でもあり商人でもあるということから来る措置だとご理解ください。

 メガネを買うのはよその店、
調整技術だけは調整技術のある店という、
いわば技術のつまみ食いをしようという人の場合、
それが悪いと断定はできないのかもしれませんが、
私はそこまでユーザーに対して奉仕的にはなれません。

 そこで、私は、
商売商売で対応するAでもなく、
とにかく面倒な事からは逃げるBでもなく、
専門職の責任感とプライドの双方、そして商人としての損得勘定を勘案して、
上記の5つの条件を並べたわけです。

 なお、この件について、
業界でメガネの技術講師として名高い横田進氏は、
自店のホームページに
「当店では、
他店でお求めになったメガネフレームのフィッティングは
原則としてお断りしておりますが、
特にお困りの際は、ご相談下さい」

と、書いておられます。
具体的には私と同じようなことになるのだと思います。


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