「サングラスは薄い方が目に良い」のウソ
岡本隆博
「サングラスはレンズのカラーの濃いものよりも、薄いもの方が目に良い。
なぜならば、レンズカラーが濃いと、瞳孔が開き気味になり、
そこから多く入った紫外線が瞳孔よりも奥にある水晶体や網膜などに与えるダメージが益すので……」
という俗説が巷に広がっています。
なかには、上記の俗説の「なぜならば」以降を知らずに、単に
「サングラスはレンズカラーの濃いものは目に悪い」という間違った思いこみをしている人もいます。
“サングラスのレンズは、色が濃い方が眩しさを防げて具合が良い”
という「常識」の「ウソを衝く」ような、
この説はテレビや雑誌でさんざん流されましたから、
一度も聞いたことがないかたは少ないと思います。
これは本当に、常識のウソを衝いた、有益な説なのでしょうか。
●
ではこれから私が、
この俗説が、100%間違い、とまでは言えないけれど、
99%役に立たない非現実的な説であり、いかに舌足らずな説であるかということを説明しましょう。
その前に、紫外線についておさらいをしておきます。
太陽光線のうち、
実際に見えているもの(可視光線)は
波長にすると400nm(ナノメートル)から800nmとされており、
400nm以下を紫外線と呼んでいます。
紫外線は波長により、下記のように分けられます。
UV−C : (短波長紫外線:280nm以下) 大気層などで吸収され、地表には到達しません。
UV−B : (中波長紫外線:320〜280nm)
そのほとんどは、大気層(オゾン層など)で吸収されてしまいますが、
高山や海上などでは、一部が地表へ到達します。
UV−Bは眼においては結膜や角膜ですべて吸収されるので、
比較的短時間のうちにこれによる結膜や角膜の障害が生じることもあります。
俗にいう「雪眼」はこのUV−Bによります。
UV−A : (長波長紫外線:400〜320nm)
*380nmまでを紫外線とする説もあり、
400nmまでを紫外線としてよいかどうかは疑問が残るところですが、
一応、そうしておきます。
UV−AはUV−Bほど有害ではないが、長時間浴びると健康懸念があります。
眼に対しては、角膜で吸収されないで、水晶体や網膜にまで達して、
長期に渡ってそれが蓄積されると水晶体や網膜の障害を引き起こすことがあるといわれています。
(1)可視光線
サングラスというのは、たいていの場合、
眩しさを防ぐことと、紫外線を防ぐということの二つの役目を持つのですが、
眩しさというものは紫外線とは関係が無く、可視光線の強さ(量)に関することですから、
これを防ぐにはグレー系、グリーン系、ブラウン系などの地味な色で濃い色でないとだめです。
濃度にして20%にも満たないような薄い色のサングラスでは眩しさに対する対策にはならないのです。
冒頭の俗説は、そのことについてはまったく触れていません。
ですので、眩しさを防ぐという目的も持ってサングラスをかける人には、
この俗説は無意味なもの、というか間違った説となってしまいます。
ですから、旅行で緯度の低い光の強いところへ行くという場合には、
濃い色のサングラスを選んでください。
(2)UV−C
紫外線では、まず、UV−Cですが、
これは地上には到達しないので我々と無関係なもので、
もちろんサングラスとも関係がないものです。
ですから当然この俗説も無関係です。
(3)UV−B
次に、UV−Bについては、
普通の低地の町で生活している人には関係がないもので、
主としてスキーや登山のときに注意がいるのですが、
昨今のサングラスではどういう素材のものでも、
このUV−Bをすべてカット(レンズの中で吸収してしまって、
より奥へその波長の光を貫通させない)してしまうのです。
たとえば、UV400カット(波長400nmまでの紫外線をほぼ100%カットする)
とは言えないCR39という素材でも、
360nmよりも短い波長の紫外線はすべてカットし、
360〜400nmにおいても、
大半(UV−Aを380nmまでとすればUV−Aの9割以上を、400nmまでとしても8割は)
カットしていますし、
当然ながらUV400カットではないサングラスでも、
眼にすぐに顕著な障害をもたらすおそれのあるUV−Bはすべてカットできるのです。
ただし、レンズがあまり大きくなくてしかもレンズと眼の間がやや空いている場合であれば、
レンズ(枠)の周りから入ってくるUV−Bが眼の表面にかなり達することにより、
眼に障害が起こる恐れはあります。
しかし、それはもちろん、どんなレンズを使った場合でも同じであり、
結局は要するに、UV−Bによる眼の障害を防ぐには、
どんなレンズでも良いから(よほど安物のガラスレンズは別として)
大きく目の周囲をカバーできるサングラスがよいということになります。
ジョギング用のスポーツサングラスなどは眼のまわりのスキマが少なくてよいですね。
(4)UV−A
この俗説において問題としているのは、
眼の虹彩が作る瞳孔を通って水晶体や網膜にまで達する紫外線のことですが、
それはUV−Aであり、UV−Aは長期的に眼内に入った場合には
目の水晶体や網膜に障害を与える恐れがあるものです。
しかし、たとえば、1週間の旅行の間にどうこうというような紫外線ではありません。
したがって、この俗説は、
長期的にUV−Aが水晶体や網膜に蓄積的に影響を与えることからくる眼疾患を予防するために、
屋外でメガネやサングラスを「常用する」場合の話です。
短期的一時的に強い太陽光線の元で、
紫外線カットや眩しさよけのためにサングラスを使う場合には、
この俗説は関係のない話となり、
そういう目的であれば、(3)で述べたようなサングラスが良いのです。
…………
では、最後に、この俗説は、
どういうシチュエイションでなら成り立つのか、ということを考えてみましょう。
まず、
サングラスが眼のまわりをけっこうきっちりと覆っていて
顔とのスキマが非常に少ない場合では、
たとえ瞳孔が開き気味であっても、レンズを通らない光は殆ど眼の表面にさえ達しませんから、
レンズがUV400カットのものであれば、UV−Aは、眼の瞳孔よりも前にも奥にも達しないので、
レンズの色の濃さは関係がない話となります。
ですから、
小さめのサングラスやメガネで、
眼のまわりの空きが多い場合で、
UVAの悪影響を予防するために常用するのなら、
一応この俗説は成り立つと言えるかもしれません。
しかし、そういうもので濃い色のものを使う人がもともといるとは考えにくいので、
こんな説をいまさら言われる必要はないとも言えるでしょう。
また、眼の周りの空きが少なめのサングラスであっても、
レンズがUV400カットでなければ、
レンズを通して眼に達する400nmに近いUV−Aによる長期の影響ということが絶対に考えられないとも断言はできないので、
そういう場合であれば、この俗説もまんざらウソとは言えないかもしれません。
しかし、そんなメガネでも、
やはり常用のメガネやサングラスで、濃い色のものを使う人が、そもそもいるのでしょうか。
なお、網膜などの疾患の進行を緩和するために屋外で常用するカラーレンズにおいては、
その状態に応じた適切な濃さは眼科で教えてくれますので、
この俗説は気にするべきものではありません。
なお、その場合には、なるべく眼を広くカバーできる枠を選ぶのがよいでしょう。
まとめ
次のようなケースではレンズの色は薄いのがよい。
● 眩しさは防がなくてよいが、
UV−Aによる眼への長期的な悪影響を防ぐために、
メガネやサングラスを屋外で「常用する」場合で、
◎ レンズはUV400カットが入っているけれど、レンズ(枠)が小さめで眼のまわりから結構光が眼に達する場合。
◎ レンズはUV400カットのレンズではない場合。
(しかし、UV400カットではなくとも、
ほとんどのプラスチックレンズはUV−Bを100%カットするのはもちろんのこと、
UV−Aの大半(80%以上)もカットするので、
実際にはUV400カットのレンズとの紫外線(UV−A)防御の効果は
さほど差はないと、私は考えています)
そして、次の場合には、この俗説は成立しなくて、濃さは用途に応じた濃さがよい。
(我が国でサングラスを掛ける人のほとんどは下記のどちらかの使用です)
● サングラスを毎日屋外で朝から夕方まで常用するというのではなく、車の運転や魚釣りのときなどに眩しさよけのために使う人。
● 旅行のときだけとか、短期的に使う人。
また、サングラスにおけるUVカットの効果をことさらに強調する宣伝記事を
自分の店のホームページなどに書いている人は、
下記の2とおりのうちのどちらかだと私は思います。
1.ここで私が述べたことはわかっているが、UV400カットのレンズを売りたいと思って、UVカットを強調している。
2.ここで私が述べたようなことは考えずに、レンズメーカーの宣伝文をそのまま自店のホームページに載せている。
↓普通のCR39レンズとUV400カットレンズの比較
この図は、
あるレンズメーカーのレンズガイドに載っていたものに、
私が破線を入れてレンズの種類を分かりやすく大きく書き入れたものですが、
これを見ると、
地上に達する紫外線が仮に280〜400nmとしても、
UV400のレンズと、
普通のプラスチックレンズとのUVカットの性能(紫外線全体のうちのそれだけの割合をカットするか)
の差はわずかだとわかります。
* 下記の議論は、上記小論の筆者である岡本の友人の眼鏡技術者によるものです。
濃いサングラスでも縮瞳する
原 紫外線俗説への明解な論破をありがとうございます。
この時期になると、この俗説を信じこんでおられるご婦人がご来店になります。
(もっとも、私自身も、以前はよく考えずにこの説を半分信じていましたが)
私は通勤に自転車も利用しますが、ほとんど毎日濃度85%のサングラスを使用します。
説明のときには、実体験から、夏の晴天時に濃度85%のサングラスを掛けてもまったく暗く感じないので、
瞳孔は大きく開かないですよと付け加えて説明します。
岡本 明るい屋外と、曇天などでやや暗い屋外とでは、明るさ(光の量)に非常に大きな差があります。
たとえば、マニュアルで露光を調節する写真をやっている人だとわかるのですが、かなり明るい屋外では
太陽が当たるところでシボリが11でシャッタースピードが250として、
日陰では、シボリが5.6でシャッターは30としますと、
その日陰での光の強さは、太陽の当たるところの1〜2%程度だとわかります。
計算式:0.5×0.5×0.5×0.5×0.5×0.5=0.015
逆に言うと、明るい直射日光の下では、日陰よりも50〜100倍も明るいということです。
ということは、その明るいところで85%の濃度(透過率は15%)のサングラスをかけた場合、
(レンズの周りからまったく光は入らないとしても)
それでもなお、サングラスなしで日陰にいるときよりも、10倍くらいも光が眼に入ってくることになるのです。
それなら、当然ながら、裸眼で日陰にいるときよりも、
明るいところで濃度85%のサングラスを掛けている方が瞳孔は小さいということになります。
ですから、実際においても明るい屋外では濃いサングラスをかけても瞳孔は十分に小さくなるのです。
ということは、やはりあの俗説は、サングラスをかけたくなるようなまぶしいほどに明るい場所では通用しないということです。
○
若井 サングラスの濃度と瞳孔の大きさの話、
私の勤務している会社でも、以前に社内webページで説明がありました。
私はこの説明を読んでからお客様に対する説明の仕方を考えて、
できるだけ正しく情報が伝わるよう努力しているつもりです。
また今回MLで話題になりましたので改めて勉強させていただきました。
しかしながら私の後輩や同僚、場合によっては店長ですら、
濃いサングラスをかけると瞳孔が大きくなるという旨の説明をしている人がいます。
理由を聞くと二つのパターンがかえってきます。
パターン1:情報を見落としていたりしていて知らなかった。
聞いたことがなかった。教えてくれなかった。
ゆえに巷に広がっている俗説をそのまま鵜呑みにして説明していた。
パターン2:情報は見たので知っていた。
しかし、お客様は俗説を信じきっているので話を合わせるためにそういう説明をする。
この二つのパターンに対して私は……
パターン1:新入社員や若手に多く、
ちゃんとした情報をちゃんと説明することで解ってもらえるのでしっかりと説明をします。
それまでちゃんと正しいことを伝えていなかったことを反省をします。
パターン2:ベテラン社員に多く、
知りながらやっているので説明云々の話ではなく非常にやっかいです。
ましてや私のような若輩者から言われるとムッとされる方が多いのが事実です。
「お客様に合わせるのが我々の仕事だから話も合わせるんだ」というよくわからない話をする人もいます。
正しい情報を説明せずにお客様に合わせるもなにもないような気がするのですが……。
根本的な問題として
「ベテラン社員が正しくない情報での説明をしてしまっているので若手の社員が正しい情報が得られない」
「正しい情報が得られたとしても先輩と違うことをお客様に説明できない」というように、社員数が多い会社の弱点がモロに出ているように思います。
どちらにしてもお客様に正しい情報を伝えずに販売をしているということは非常に大きな罪だと思います。
何とか皆にそのことを伝えていきたいと考えているところです。
岡本 俗説に従って販売した商品が、お客さんの用途に合わなかったら、お客さんのためになりませんよね。
俗説を信じているお客さんに対して、そのままの商売をするというのであれば、子供でも販売員がつとまります。
専門的な品揃えと知識でコンサルティング販売ができるのが専門店なのですが……。
お客さんがおっしゃることに対して否定的な事を言うと気分を害されるから、
それは避けたいということであれば、せめて、
「濃い色の方が眩しさをカットできます。
色がうすいサングラスだと眩しさは取れませんが、オシャレ的にはいいと思います。
それでいいんですね」くらいの事は申し上げて
「いや、眩しさを防ぎたいんだけど」ということになったら詳しく説明する、
というふうに持っていったら良いと思うのですが……。
それと、眩しさカットの目的で使う濃い色のサングラスや、
たまに用いるサングラスにおいては、
UV−Aの長期に渡る瞳孔よりも奥への影響とは関係がないわけですから、
UV400カットでなくとも、UV360カット(普通のCR)で十分だということの理由も、
今回の私の所論でご確認いただけたと思います。
なお、ニコンの価格表(お客さまに見せる当店価格表)においては、
CRには「UVケアー」、UV400カットのものには「UV400」としてあります。
イトーレンズの価格表では「UVなし」「UV付き」となっています。これはちょっとヒドイ……。(^_^)
他のメーカーの当店価格表では、この表示はどうなっていますでしょうか。
UVBANって、何?
原 岡本さん、ホヤの当店価格表では、CRは表示なしで、CR以外は「UVBAN」となっています。
岡本 UVBANというのは、わかりにくい表現ですね。BANって、何の略なんでしょう?
それで、セイコーや東海光学の価格表では、どうなっていますでしょうか。
セイコーの価格表は、当店には少し古いもの(2004年11月)しかないのですが、
それにおいては、「UVカット標準」と「表示無し」とに分かれています。
表示無しの分でも、UVカットは十分だと思うのですけどね。
360カットのCRでもハードマルチになると380カットになると聞いたことがあります。
それなら「UVカット十分」といえますし、380nmまでが紫外線であるという立場に立てば、UV100%カットだともいえます。
当店の東海の価格表は、さらに古く、2001年のものですが、(^_^)
そこでは「UV付き」と「通常品」という区別表示です。これもいただけません。
こういう表示を見たら、ユーザーは、「通常品」だとUVをカットできない、という誤解をしやすいし、
バカなメガネ屋も、そう思うかもしれません。
これだと、値段を上げるために、
不要なUVカットのレンズを売ろうとするメガネ店にメーカーが援護射撃をしているのではないかと疑われても仕方がないでしょう。
セイコーと東海の新しい価格表をお持ちのかたは、いまはどうなのかということをぜひ教えてください。
原 UV練りこみのものを、UV-BANと表示してあり、
CRレンズのUVコート付きをUVテクノミントと言っております。
それで、先ほどホヤのテクニカルセンターにお聞きしましたら、
UV-BANのBANとは英語で遮断するという意味だということです。
なお、UVカットでないと紫外線をカットしないのではと思っている、お客さんは多いです。
浅野 セイコーは屈折率1.50のレンズは価格表に載せていませんので、
UVカットの表示はすべて「UVカット標準」となっています。
東海光学のUV表示は、標準仕様(新UVカット)というのと、
全くUVカット表示のない1.50屈折の2種類あります。
後者のUVカット表示のないレンズは、後付でUVカットがオプションになるのは今までと同じです。
最近は、屈折率1.50でも練り込みでUVカットにしているようです。
岡本 セイコーから、商品としての1.5プラスチックはなくなったのでしょうか。
それともまだ出ているのでしょうか。
もしまだ出ているとすれば、貴店の判断で、貴店の当店価格表には1.5のレンズは一切載せておられないことになりますが、
それはなぜでしょうか?
それと、東海のは、「表示無し」と「標準仕様(新UVカット)」という表示、に区別されているわけですね。
その「新」というのは練り込みのことなのですね。
それから原さん、そのBANなら、RaybanのBANですね。
辞書を引いたら「禁止」という名詞でした。
なお、メガネ屋でも、UVカットの知識がそのへんのおばちゃんと同じレベルの人もいると思います。
そんな人は知らないものの強みで、お客さんに「UVカットのレンズの方がいいですよ」と勧めるのでしょう。(^_^)
浅野 岡本さん、今、確認しましたがセイコーから、商品として1.5プラはなくなったようです。
それと、何が「新」なのかな?と思って確認しましたら、いわゆるUV400の練り込みのことだそうです。
岡本 そうですか。プラスでもマイナスでも、単焦点でも累進でも、
1D前後のレンズなら、1.5で十分だと思うのですが、
まあ、1.5はなくてもよいとするメガネ店が多いから、セイコーもそうしたのかもしれません。
メガネ店の全体的なレベルが、
メーカーの商品のレベル(種類や表示も含めて)を左右するわけですね。
小見 セイコーから1.5が消えたと聞いて、え!?と絶句してしまいました。
私のところでは今でもCR39の販売比率が一番高いです。
コートに関しては、CR39が一番歴史があって技術的に円熟していますから
一番安心して使える硝種だと思うんですけどね。
岡本 多くのメガネ店では、技術的なことよりも商売的な思惑が優先し、
うちは安売り店でなくて専門店なんだから、(という理由も変なのですが)
1.6プラがスタンダードで、まずそこからスタートし、
可能ならなるべく屈折率の高い(値段が張って単価アップになる)
レンズをすすめていく、というのが常套手段のようです。
我々のように、度数に応じてCRもお勧めするという店は、むしろ少数派だと思います。
あ、そうそう。梅岡先生も、コートはCRが一番良いと言っておられました。 ≪
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