不同視矯正メガネ


メガネでは対応できない不同視・弱視とは

眼科やメガネ店で
「あなたは強度の不同視ですので、メガネでは矯正が難しいです」
と言われたが、
ドライアイやその他の理由で自分はコンタクトは向かないから困っているとか、
不同視で近視手術を勧められたが手術をする決心がつかない、とおっしゃるかたに、情報を提供します。
ただし、自店にお客さんを誘導するための偏った情報ではなく、公正な立場から本当のことを書きます。


(A)コンタクトならOKか

たしかに、コンタクトレンズなら相当の不同視でもうまくいくケースが多いようです。
しかし、皆さんが必ず快適に使えるとは限りません。やはりコンタクトの処方の上手下手もありますし、そのレンズが眼になじみやすく汚れにくいものであるかどうかということもあります。
コンタクトは眼科の専門医師に処方をしてもらうのがよいと思います。


(2)近視手術はどうか

近視手術も、もちろん不同視には適応です。
ただし、近視手術は、誰にでも向くとは限りませんし、いまではかなり安全なものなのでしょうが、中には報道されないトラブルもあるようです(自店のお客さんで近視手術をして後悔しているかたがおられました)ので、手術代金を払う前に、すなわち、手術を受ける決心をする前に、手術の同意書(これこれのことがあっても、あとで文句はいいませんという誓約書)を見せてもらうのがよいと思います。
そして、その同意書の内容に納得できれば、サインをして、それから手術代金を払えばよいと思います。
それと、手術してから年数がたつにつれ、眼の状態(屈折異常の度数)が変わるでしょうから、その場合にはどうなるのかということも事前に確認されるのがよいと思います。


(3)弱視の場合はどうか

眼科学的には、メガネで矯正しても1.0の視力が出ない場合を弱視というようですが、
不同視であってもなくても、片方の眼の矯正視力が0.5前後かそれ以上出て、
他方の眼で1.0以上の視力が出れば、
さほど不自由なくモノを見ることも可能な場合が多いものです。
ただ、メガネで矯正しても両眼ともに0.2〜3程度の視力しか出ないという場合で、
特に以前はけっこう視力が出ていたという人の場合には、不自由を感じることが
多くなります。
なお、円錐角膜で、メガネでは視力が出にくいときには、コンタクトレンズで
矯正視力が出ることが多いです。


それでは本題に

では、これから、メガネで不同視を矯正する話に入ります。
HOYAのビジョンケアQ&A http://www.vc.hoya.co.jp/qa/make_ans_4.html(2006.5.26現在)に、次のような質疑応答があります。

(引用はじめ)
質問 「左右の視力がかなり違うんですが、 メガネとコンタクトのどちらがいいの?」(引用おわり)

これに対して、日本大学医学部板橋病院眼科の名誉教授、北野周作先生が、次のように回答をしておられます。

(引用はじめ)
片眼の視力が他眼の視力とかなり異なる場合を、不同視といいます。不同視の方で、特に左右の視力が著しく異なる方には、コンタクトレンズがおすすめです。
左右の視力がかなり異なる不同視の方がメガネをかけると、左右の網膜に映る像の大きさが異なってしまうため、そのメガネを使いこなせないということがあります。メガネのレンズは目から約1.2cm離れているため、外から入った光が目に届くまでの間に像が縮小(拡大)されてしまうからです。
これに対し、コンタクトレンズは目の上に直接乗せますので、網膜上の像の縮小(拡大)はほとんど起こりません。従って、不同視の方でも網膜に映る像が左右の目でちぐはぐになるということはほとんどなく、メガネよりも適しているというわけです。

また、メガネレンズの場合はプリズム作用から、横目を使う際、レンズの中心から離れたところでものを見ると二重に見える(複視)ことがあり、不同視の方では両眼視ができなくなります。この場合も、コンタクトレンズなら視線とレンズが一緒に動くので、複視が起こることはありません。不同視の方にはコンタクトレンズが有利といえます。(引用おわり)

この回答の内容は、眼科医としては一般的なもので、たいていの眼科医師は、不同視というテーマでは概略このような解説をします。
そして、私がこれを読むと、北野先生は、ほとんどの眼科医師がそうであるように、眼鏡処方に関しては教科書的な知識しかなくて、その実際にはあまりお詳しくないかたであるとわかります。

それと、これは一般向けの解説だから、不同視というものの説明(定義?)をこういうふうに書かれたのでしょうが、これではいささかオソマツです。
左右各眼鏡の視力がたとえ異なっても、屈折度数(近視や遠視の程度)があまり違っていなければ「不同視」とは呼びません。左右の屈折度数の異なるものを不同視と言う、というのが眼科学の常識です。

 そして、臨床の場では、左右差が1D以内であれば、普通は「不同視」とは言いませんし、1Dを越えるころからぼつぼつ「不同視」と呼ぶ場合も出てきて、左右で2D以上の差があれば、強度不同視として問題にする必要が出てくる、というところでしょう。

それで、実際のところ、2D以上の差があれば、メガネで矯正することは無理なのでしょうか。あるいは、逆に、左右差が2D未満の不同視なら、それを両眼共に完全矯正または同程度の低矯正にしたメガネは、問題なく使えるのでしょうか。
それに対して私は「ノー」と言っておきます。

メガネでの矯正においては、たしかに左右の度数差は少ない方がなじみやすいのですが、しかし、左右差が0.75Dしかなくとも疲れるメガネになることもあれば、左右差が3Dでも4Dでも使えるメガネになることもあるのです。それが本当のところなのです。
こういうことは眼鏡処方で長年苦労した人なら、たいていは知っています。

不同視のメガネが実際に使えるかどうかということは、そのメガネの左右の度数差だけで、判断できるのではないのです。では何で判断するのかと言いますと、その一番大きな要素は、それ以前はどうであったか、ということによるのです。

たとえば、分かりやすい例で言いますと、これまではメガネはまったく使っていなかったという場合であれば右が−0.50、左がマイナス1.50という、左右差1Dのメガネは、かなりしんどいメガネになりますが、逆に、これまで右が−0.50で左が−1.75のメガネを使えていた人なら、度数の強かった方の左が弱くなったのですから、今度はしんどくも何ともないわけです。

また、右が−3Dで左が−5.25Dで使えていたのなら、今度のメガネを右はそのままで左を5.75Dにしても、平気で使える、ということもあります。左右差2.75DでもOKなわけです。
要するに、いままでと今度とどれだけ変わるのか、というのが最大のキーポイントなのです。

それから、不同視メガネが馴染みにくい理由として北野先生は二つの理由を挙げておられますが、これも私に言わせれば、教科書的なものすぎません。

不同視矯正眼鏡によってたしかに不等像視が生じる場合もありますが、生じない場合もあります。
その理由は、その眼が感じる像の大きさは眼の屈折度数だけで決まるものではなく、眼軸(眼の奥行き)の長さやその他のいろんな要素が複合して、脳が感じる眼底像の大きさが決まるからです。
それは、偏光性を持った不等像検査視標を見れば、よくわかります。(下図参照)


北野先生は、実際にそういう検査を不同視の人になさったことがあるのでしょうか?
また、プリズム誤差は、たしかにレンズの光学中心をはずれたところを視線を通して見れば生じるのですが、それが実際に問題となるのは水平方向におけるプリズム誤差ではなく垂直方向におけるプリズム誤差なのです。

そんなことは優秀な眼鏡技術者にとっては当たり前の知識であり認識なのですが、眼科関係者の多くは、そういう当たり前のこともことも知りません。そしていつまでたっても、水平方向のプリズム誤差のことだけ言うのです。水平方向に関しては、垂直方向とは違って融像に融通が利くので、プリズム誤差はほとんど問題にはならないですが。
眼科の中では比較的屈折に詳しい大学教授の書いた本にも、水平方向のプリズム誤差のことが書いてあります。眼科のえらい先生は、いかに眼鏡矯正の実際にはうとい人たちなのか、というよくわかる実例です。

それと、北野先生が書かれた、「メガネのレンズは眼から約1.2cm離れている」というのも、少し違います。
日本での基準はたしかに12mmなのですが、アメリカでは13.75mmなのです。
そして実際のところは、何ミリがベストなのかというのは、ケースバイケースで一概には言えないのです。
でも、この北野先生はまだマシです。中には「12mmでないといけない」と教科書どおりのことを強制するようにおっしゃる(書かれる)眼科の先生もおられるのですから。
 その先生に私は言いたいです。「そうですか、では先生ご自身がかけておられるメガネは、レンズの裏面の中心(後側頂点)と角膜頂点の距離はきっちりと12mmになっているのですね。それは、どうやって計測をなさいましたのですか?」と。
 
不同視矯正眼鏡に関する眼科医師の認識に対する批判は、この程度でやめまして、次に、では不同視矯正眼鏡はいかにして測定調製をすればよいのか、という話に入ります。
やや専門的な内容になり、詳しく書くとわかりにくくなるかもしれませので、なるべく一般の人にもわかりやすいように、要点をかいつまんで書くことにしますが、眼鏡技術者で、まだ初心者の人にも、十分参考にしてもらえると思います。

(1)不等像視は気にしなくてよい

不同視をメガネで矯正すると、左右の眼底像の大きさが異なる「不等像視」が生じることがありますが、それは気にしなくてよいです。なぜならそれが原因でもしそのメガネが使いにくいのなら、装用テストで違和感を訴えられ、左右共にレンズの中心付近で見てもらっても、その違和感がなくならないからです。
 装用テストで「このくらいなら慣れそうです」という答えがあれば、問題になるほどの不等像は生じていないとみしてよいのです。もっとも、心配であれば、先に紹介した「コの字視標」で不等像のていどをおおざっぱに見てみてもよいのですが、それもあくまで参考程度です。

(2)問題は上下プリズム誤差である

不同視矯正眼鏡をかけた人がレンズの光学中心(ここにはプリズム作用は生じない)よりも上あるいは下でものを見ますと、右眼にかかる上下プリズムの値と、左眼にかかる上下プリズムの値がそろわないので、ものが見える高さに関して、左右でずれが生じまして、それがために見えづらいメガネとなることが往々にして起こってきます。
たとえば、右は−1.00D、左は−3.00Dという度数のメガネで、光学中心よりも1cm上で、5m先にあるものを見ますと、右で見るよりも左で見た方が10cmほど下にあるように見えます。
それを、視線の上下方向への融像力によって一つに見ないといけないわけですから、これはかなりの無理を眼に強いることになります。
この問題に対する解決策は、次のとおりです。

1)
処方において、なるべく左右の度数差(特に垂直方向における度数差)を少なくする。(左右での多少の視力差はやむをえない)
 これは当然のことですが、「度数差を少なく」まではわかっていても「垂直方向の」ということまで理解してそれに留意した眼鏡処方をしている店や眼科は、さほど多くありません。
強い乱視があった場合には、この「垂直方向での」ということを忘れてはいけないのです。

2)
両眼視の状態で、同時視や融像視がなされているかどうかをチェックしておく。
 これには偏光性を帯びた視標を利用します。左右差が3Dを越えているのに平気で使えているメガネの場合には、片眼に抑制がかかっている(眼はあいていても脳では見ていない)場合がよくあります。

3)
枠は小さめで、上下幅も狭めのものがよい。
 不同視で大きめの枠を使いますと、側方視の場合の像の歪曲がそろいにくいので融像が難しくなる傾向が出てきます。そして上下の幅も狭い方がよく、その方が自然とレンズの光学中心付近の高さでものを見ることになります。

4)
レンズの心取り設計に留意する。
うまくフィッティングされたメガネ枠の、どこにアイポイントが来るのかということを、不同視でない場合よりも、特に気を入れて把握する必要があります。

5)
装用距離(角膜頂点間距離)をなるべく短めにする。
不同視の場合は、レンズと眼の間隔は、12mmなんてのは、まったく無関係な数値と言ってよいわけで、短ければ短いほど良いのです。その方が不等像の程度が少なくなり、レンズのやや上や下でものを見た場合にも、上下プリズム誤差が減るので違和感が少なくなるのです。

以上は単焦点の場合の留意点ですが、遠近両用となると、少し話が違ってきますが、そうなると話は複雑になりまして、それだけで、多くのページを必要とする詳しい技術解説となりますので、ここには書きませんが、とにかく、次のことは申しあげておきます。
「不同視矯正の遠近両用は、単焦点の場合よりも、処方も調製もずっと難しい」



それで、当店では、以上のことも踏まえて、不同視の眼に対する矯正眼鏡を処方調製していますが、全国には、当店の他にも、不同視矯正眼鏡をうまく処方調製できる店が、少なからずあります。

http://www.joyvision.biz/shikaku_study.html

この会に所属の店もそうですが、あなたの地域にこの会の店がない場合には、私にメールで問い合わせていただきましたら、あなたの地域になるべく近い店をご紹介します。

問い合わせ先  DQA02134@nifty.ne.jp

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