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K眼科への報告書 |
2013.7.2 ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会 岡本隆博(メガネのアイトピア店主) |
K眼科(奈良県北葛城郡)発行の眼鏡処方箋をお持ちになり、
若い女性がご来店になりました。
処方箋の度数は
R=S-12.25 C-1.25 Ax180
L=S-15.00 C-1.25 Ax150
となっていましたが、もう一枚処方箋があって、
++++++++++++++++++++
訂正分の処方箋
L=S-15.25 C-1.25 Ax170
適要
申し訳ありませんが、左にレンズ変更をお願いいたします。
あわせて頂間距離の調整もお願いします。
(レンズが離れると見えにくくなりますので、少し
近いめの方が落ち着くかと思います)
+++++++++++++++++++++
としてありました。
これだけの度数ですと、頂間距離をどのくらいに設定して
処方度数が決められたのかがわからないままで
メガネを作るのはたいへんリスクがあるので、
当店で、測定し、度数を決めることにし
こちらで決めた度数でメガネを作りました。
このかたは眼の疾患でその眼科に通っている
かたなので、できたメガネを検査してもらうと
おっしゃるので、
当店からの調製報告書を書き、
それも必ず見せてから、できたメガネの検査を
してもらうように申しました。
そうしたら「必ずこれも見せます」とのことでした。
以下は、当店からK眼科への報告書です。
文中の ●● のところへは、実際の報告書では
このお客様のお名前が入れてあります。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
K眼科様
大阪梅田の「メガネのアイトピア」の店主の岡本隆博です。
当店の場合、強度近視メガネの専門店として、日常的に強度近視のかたの
メガネの処方や加工調製を私どもでは行なっておりますが、
このたび当方で調製させていただきました、
●●様のメガネについて、ご報告を申し上げます。
まず、結果から申し上げますと、当方では●●様のメガネを、
このたび下記のようにお作りさせていただきました。
R=(1.2×S-12.50 C-1.25 Ax8 ) OCD=62
L=(1.2×S-15.00 C-1.50 Ax170 ) BV=(0.9)
これで、遠方の見え方もご不満がなく、
パソコンや読書なども調節に無理なく見えています。
(近見については、近見の赤緑テストにおいて、
緑>赤にならないことを確認しました)
この調製度数に至る経過についての説明を以下に書きます。
長くなって恐縮ですが、意を尽くして説明をしますと、
短い文章では無理ですので、ご勘弁をお願いいたします。
当店は、強度近視のかたのメガネでもレンズが薄く軽くなる
ウスカルメガネの専門店として、これまでに約8年間の調製実績を持っております。
それについては、ネットで「強度近視 アイトピア」と検索をかけていただきますと、
当店のホームページの中の当該サイトが出て参りますので、
それをご参照いただければ幸いです。
(当店には、連日強度近視のお客様が来店されまして、
10Dを越える超強度のかたも、月間に10名前後おこしくださいます)
●●様に関する貴院の眼鏡処方箋に、角膜頂点間距離(以下、VDと表記する)
についてご注意を書いていただいていました。
これは実にその通りでありまして、たとえば15Dにもなりますと、
VDが1mm違うだけで矯正効果が0.25Dほど変わり、
VDが2〜3ミリもかわるとまったく違った視力になってしまいます。
ここで少し釈迦に説法をお許しください。
そもそも「VDは12mmが基準、とされることの意義は何か」(問A)
と申しますと、「VD12mmで作らないとそのレンズの性能が落ちて、
見え方が悪くなる」(解答B)とか「VD12mmでないと目に良くない」(解答C)
などというのはまったくの誤りなわけですが、
「12mmでないと正確な矯正効果(処方どおりの視力)が出ないから」(解答D)
というのでも、半分しか正解ではなく、
上記の問Aに対する正しい答としては、下記の【 】内の記述になります。
【もしもVD12mmで測定されて処方された度数のメガネで、
強度の度数のものであれば、その処方度数を元に作って調製する場合に、
VDを12mmにしなければ所定の矯正効果や視力が出ないのであるが、
その目的をのみ果たすためであれば、
場合のVDは必ずしも12mmである必要は無く、
処方時のVDと調製眼鏡におけるVDが一致しておれば、
VD9mmでもVD15mmでも、所定の視力や矯正効果は出るのである。
しかしながら、約束ごととして、そのミリ数を決めておかないと、
処方者と制作調整者が違う場合には不便であるから、
我が国では一応12mmとしてある。
また、レンズメーカーがレンズのカーブ設計をするときに、
VDの基準がないと設計ができない。
故に我が国ではそれを12mmとしてあるのであり、
これは万国共通ではなく、たとえばアメリカでは13.75mmなのだが、
これはアジア人に比べて眼が奥についているコーカソイドの
メガネの処方調製には具合がよい距離なのであろう。
また、6D未満の弱度〜中等度の屈折異常の眼鏡矯正においては、
こういう矯正効果の変化は、さほど問題にならず、
たとえば、3Dでは、たとえばVDが4mmちがっても矯正効果の変化は
0.04D程度だし、5Dで0.1D程度である。
(この簡易計算式は、
△D=D×D×h÷1000、となりまして20D程度までならこれで実用する)
そして、矯正効果の点を除けば、通常はVDは短ければ短いほど好都合となる。
たとえば、VDは短いほど……
・レンズサイズが小さめでもフレーム視野の小ささを感じなくてすむ。
・歪曲収差の感じ方が少なくなる。
・非点収差の感じ方も少なくなる。
・乱視矯正による像のゆがみの感じ方が少なめですむ。
・近視矯正の場合、装用者が感じる網膜像の縮小は少なめですむ。
・矯正眼鏡による距離感の不自然さも少なめですむ。
・強度近視の場合、低矯正処方のレンズなら、矯正視力が増す。】
そこで私どもでは、強度近視のかたのメガネにおいては、
ほとんどの場合に、レンズを薄く軽くするために
「鼻幅は広く、玉型サイズは狭い」という枠(ウスカル枠)を使って、
VDを極力短めに、すなわち、まつげがレンズに触れる寸前くらいまでにして、
全体的に装用感も良くて視野の狭さをあまり感じないメガネにしているわけです。
それで、実際のところ、眼科でもメガネ店でも、
処方度数を決めたときのVDはどうなのかと言いますと、
それを正確に測定できる器械もないし、その値は不明なわけですので、
10Dを越えるような強度のメガネを、処方決定時のVDを知らずして制作するのは、
きわめてリスクが高いわけです。
しかも、眼科処方箋でのメガネの製作であれば、
その処方度数が、完全矯正なのか、低矯正なのか、
低矯正だとすれば、どの程度の低矯正なのか、それもわかりません。
ですので、もしも、眼科での処方決定のときに、
ほぼ12ミリのVDで完全矯正に近い度数で決められたのであれば、
それを安易に短めのVDで作りますと、
強度近視の場合、もう明白な過矯正のメガネとなってしまいます。
そこで、このたびの●●様のメガネについては、
お客様のご承諾もいただいて、当方で屈折検査もし、
それをもとに調製度数のご相談と決定をいたしました。
私どもでは、メガネの度数のための屈折検査については、
偏光視標を利用した両眼開放屈折検査をいたしております。
それが日常視の眼の状態での、左右別の眼の屈折異常度数を知るのに
もっとも適した検査だからです。
それと、かならず実施しますのが眼位の検査です。
ただ、強度屈折異常の眼位検査の場合には、
視線とレンズの光学中心との関係が上下に少しでも左右眼でずれますと、
光学的な上斜位を検出してしまいます。
たとえば、左右とも15Dとしますと、たった1ミリの上下方向のズレにより、
眼自体に上斜位がなくとも、1.5△の上斜位があるかのように
測定されてしまうおそれが多分にあるわけです。
そこで当方の場合には、強度屈折異常眼の場合には、
裸眼で遠方や近方にある光点を見てもらって、
自覚的な交代カバーテストをすることにより、
かなり正確に眼位のずれを定量的に測定するということをしています。
(これは光点を相当ぼやけて見ていても、
その動きを見るのにはさほど障害にはならないことから可能となるテスト方法です)
今回の●●様の場合、裸眼での自覚的交代カバーテストにおいて、
光点はわずかに左右に動く感じがするとおっしゃいましたが、
上下には動きを認められませんでした。
ゆえに、屈折測定や度数処方において必要となるほどの
上下方向の眼位異常はないものと判断しました。
それから屈折検査に入るのですが、眼科とは違ってわれわれ眼鏡店の屈折検査は、
そのほとんどが眼鏡矯正を目的としたものです。
それで、このかたの場合、超強度近視ですので、われわれの屈折検査においては、
検眼枠に入った検眼レンズのVDを、実際の矯正に使うメガネにおける
レンズのVDに合わせて測定し処方調製度数の選定をするようにしないと、
メガネとして作るのには、まったく非現実的な度数しか得られないわけです。
そこで当店では、強度屈折異常眼の場合には、
(株)東和製のオクルス型軽量万能試験枠を用いて、
試験枠におけるVDを、製作予定のメガネ(あらかじめ枠を選んでもらい、
VDをどの程度まで短めに設定できるかを見てあります)のVDに極力近づけて、
屈折測定と眼鏡処方度数の選定を行っております。
この万能試験枠は、下記のような利点があります。
・VDを任意に設定できる。
・PDを左右別に設定できる
・前傾角を任意に合わせることができ、左右の眼の高さの違いにも対処できる。
・正面から見た瞳孔の高さを調整できる。
・レンズが5重に入る。
眼科での通常の屈折検査では、左右眼別にどこまで矯正視力が出るのかを
確認するのが主たる目的ですので、
たまたま設定したVDによる完全矯正の視力や度数が分かればそれでよいのですが、
そういう屈折検査ではなく、眼鏡処方を目的として屈折検査をする場合には、
強度になればなるほど、こういうことが可能な枠の方が好都合なわけです。
このかたの場合も、その理由から、当店で東和の試験枠を使って
両眼開放屈折検査をしました。
両眼開放屈折検査というのは、眼位異常や立体視機能などを見る
両眼視機能検査とは違って、
偏光視標などを用いて、他眼を遮蔽することなく各眼別の屈折測定を行う手法ですが、
その意義や実際手法についてはご承知の事と思いますので、
ここでは詳しく述べることは省略いたしますが、
もし詳しくご存じでなければ、拙著書『よくわかる眼鏡講座』(興隆出版社)に解説がございます。
(同書についてはネットにて案内があります)
さて、その試験枠で、まず左右別にPDを合わせて、
VDを(まつげが眼に触れる寸前くらいまで)眼に近くしました。少し前傾角もつけてあります。
そして、両眼を開放して両眼融像視をしたままで、
左右別の屈折測定(一次矯正)をしました。
次に、左右ともに弱雲霧をして、両眼開放での同時比較による
両眼調節バランステストをしました。
それから両眼調節緩解テストと両眼クリアバランステストをしました。
そうすると、左右眼で別々に見る視標における鮮明度のバランスが取れる
左右の球面度の差が、2.50Dから3.00Dの間で行き来します。
(雲霧の程度により、そのバランスが変るのです。
左眼の調節状態が少し不安定な感じを受けました)
それでこの場合、左右差2Dを越える不同視ですので、
その矯正の原則にしたがって、左右の球面度数の差は少なめに、ということで、
左右差を2.50Dとしました。
(その差を大きくしない方が、光学中心よりも上や下で見た場合の
上下プリズム誤差が少なめですみますので、
筋性眼精疲労が生じる恐れがやや減ります)
それにより得たこの眼の完全矯正値は下記のとおりでした。
R=(1.2×S-12.75 C-1.25 Ax8 )
L=(1.2×S-15.25 C-1.50 Ax170 )
それで、次に、十字テストで水平斜位を調べました。
このかたのPDは当方の測定では、右が28.5で左が29.5ですが、
PDどおりの設定で十字テストを見てもらうと、
自覚的カバーテストの結果と同様に少し外斜位が出ていまして、
レンズの光学中心間距離を62にすると十字が丁度うまく安定して見えます。
そこで、今回のメガネは光学中心の間隔を62ミリとして調製する
(OCD、すなわちオプティカルセンターディスタンスを62とするわけです)ことにし、
ウスカルフレームの一つであるシンメトリーのなかの、
フレームPD62のものを使うことにしました。
そうすると、レンズの水平方向の厚みは鼻側と耳側でほぼ同じとなり好都合で、
しかも、PDよりもやや広めのOCDというのは、眼鏡装用者本人にとっての
フレーム視野が自然で、合理的なものとなるのです。、
(シンメトリーは、玉型サイズは36mmで、鼻幅は22mmから36mmまで
8とおりそろえてある、超強度近視用の機能的なウスカルフレームです。
詳しくはウスカル会の公式ホームページでごらんいただければ幸いです)
そして、パッドの片寄せ(その方法については、ウスカル会の公式HPに記述)により、
両眼のアイポイントが左右対称で枠のフロントリム内に収まるようにし、
左右のフレーム視野がずれずに重なるようにしました。
この措置は玉型が小さくなればなるほど必要性が出てくるものです。
なお、今回当方で調製させていただきましたメガネは、
結果としては貴院で処方されました度数とかなり似ておりますが、
乱視軸は多少違います。
矯正レンズの乱視軸と眼の乱視軸とに相違が生じますと、
ご承知かと思いますが、度数の強弱にかかわらず、
5度のずれで矯正乱視レンズのD値の約2割、10度のずれで
約3割の乱視低矯正となってしまいます。
それで、今回は当方で測定しました乱視軸によりメガネを作らせていただきました。
それと、このたびのメガネは、強度近視でもレンズが非常に薄く軽くなる
ウスカルフレームを使い、しかも、屈折率1.9(球面設計)のガラスレンズを使いましたので、
これだけの度数であるにもかかわらず、レンズのコバ厚は最大厚みでも
3.8mmですんでおり、
枠とレンズを含めた総重量も22g弱でおさまりました。
以上をもちまして、このたび当方で調製させていただきました、
●●様のメガネの調製報告とさせていただきます。
+++++++++++++++++++++++++++++
* この報告書に対する返事は、K眼科からは来ていません。
(メガネ屋さんに)
なお、ここに記載の東和の試験枠は、
検眼のはじめから使うには、奥の位置のレンズの入れだし等で
やや不便ですが、最終の詰めの段階では、これを使うと
強度の場合でも、処方決定度数から実際製作度数への
度数の修正がいらないので便利です。
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眼鏡調製報告書
稲葉眼科 稲葉昌丸先生
平成15年4月18日 メガネのアイトピア
岡本隆博
いつもいろいろとありがとうございます。
4月11日に貴眼科発行の眼鏡処方箋(4月5日発行)を持参されました、KH様
(45歳)の眼鏡の調製につき、ご報告をいたします。
貴眼科発行の処方箋の度数は下記の通りでした。
R=S−2.50 Add.1.50
L=S−3.25 C−0.50 Ax90 Add.1.50
遠用PD=69
念のためにこの度数でテスト枠で組んで見てもらいましたところ、即座に「右は良
いが左はぼやけて見える」とおっしゃいました。
それで、当方で屈折検査をしてみました。
5m自覚的屈折検査(両眼開放屈折検査)
両眼開放での一次矯正値(両眼調節バランステストの前の値)
RV=(1.5×S−2.50) PD=36.3
LV=(1.2×S−3.25 C−0.50 Ax165) PD=32.7
遠見で3△基底内方(眼鏡矯正不要)
ここから両眼調節バランステストをしますと、左右差は0.50Dになりました。
こういうことはよくあります。初めの左右差から0.50D分かわることもありま
す。両眼調節バランステストによってこそ、快適な左右差が求められるのです。
それから、両眼調節緩解テストをしますと、下記のようになりました。(これが両
眼開放屈折検査の最終結果です)
R=S−2.25
L=S−2.75 C−0.50 Ax165 BV=(1.5)
屋外の遠方を見てもらうと、これよりも両眼ともに0.25D上げる方が、やや鮮
明に見えますが、さほどの差はなく、5mではまったく差はありません。
それで、用途を尋ねてみますと、運転はしない、室内作業が多い、パソコン(目の
高さくらいで視距離60cmくらい)を長い時間やる、とのことでしたので、累進の
テストレンズを用いてその装用テストも行なって、下記度数に決定しました。
R=S−2.25 Add1.25 PD=36.3
L=S−2.75 C−0.50 Ax165 Add1.25 PD=32.7
BV=(1.5)
累進部の長さが14mmの遠近累進を使用
遠用をこれよりもあと0.25弱めると、パソコン画面はさらに見やすい感じもす
るが、室内でも遠くがぼけて具合が悪いとのことで、これを常用として屋外でも使わ
れるので、この度数にしました。
パソコンを見てもらっても、別にこれでもいけそう、とのことでしたが、何しろ何
時間もの装用テストはできませんので、このメガネでしばらくの間連続的にやってみ
られて、もしこれでも目が疲れるようでしたら、それ専用のメガネもできますと申し
上げました。
4月5日と11日とで目の状態が違ったのかもしれませんし、また日が経つと変わ
るかもしれませんが、早くメガネがほしいとのことでしたので、この日の測定だけで
調製度数を決定いたしました。(これでもし、うまく行かなければ、一日だけの測定
で処方調製をした私の責任ですから、再製作の場合のレンズ費用はもちろん、当方の
負担とさせていただいています)
4月17日に出来あがりを取りにこられまして、お渡しのときに念のために各眼別
の視力を見てみましたら、どちらも1.2で、両眼で1.5出ていました。遠見も近見
も左右ともに気持ちよく見えるとのことです。
また、ご自身の視距離で当店のパソコンを見てもらいましたが「これでも良く見え
ます」とおっしゃいました。
○
今回、当方で処方度数を決めるにあたって、そちらに連絡(度数を替えて良いかど
うかの問い合わせ)をしなかった理由は、これまでの経験から、それをしますと、
(貴眼科の場合はどうだかわかりませんが)たいていは、お客さんにまた眼科へ足
を運んでもらったり、話がややこしくなるだけで、事情が好転した例がなかったとい
うことがあるからです。
なお、貴眼科では、眼鏡処方の際の手順としては他の一般的な眼科と同様に、基本
的には、片眼遮閉による屈折検査→両眼視で視力確認→装用テスト(乱視の修正など
も含む)という順でなされているようです。
しかし、片眼遮閉の屈折検査では、いかに厳密に「最高視力を得るもっともプラス
よりの度数」を選んだとしても、調節の介入のおそれがつきまといます。そのときに
両眼ともに調節が介入していたのなら、両眼視で視力を確認するときに、その前の屈
折検査での調節介入が判明することがありますが、片眼にのみ調節介入があったのな
ら、それは両眼開放屈折検査、とりわけ両眼調節バランステストをしないと発見できません。
それはCLのための屈折検査でも同様です。その実際手順は、先般お求めいただき
ました拙著『快適眼鏡処方マニュアル』をご覧くださいませ。
○
『眼科臨床医報、50:367、1956』の中の「両眼視による矯正」という論
文で、原田政美、内田幸男の両氏(当時、東大眼科)は、データを元に「両眼視で測
定すると、アトロピン点眼に匹敵する調節の緩解が得られることがある」と言ってお
られます。
私個人の希望としては、眼鏡店でもできそうな眼鏡処方は眼鏡店に委ねていただく
のが、万事もめる元にならなくてよいと思うのですが、諸般の事情で貴眼科の方で
すぐにそのように方針変更はできないのかもしれません。
それで、やはり眼鏡処方をなさるのでしたら、眼科の通常の屈折検査と眼鏡処方は
分けて考えていただき、眼鏡処方のときには、普通の屈折検査では行なうことが少な
いところの、眼位検査と両眼開放屈折検査(その中でとりわけ、両眼調節バランステ
スト)も行なっていただくよう、お願いいたします。それは患者さんに快適な視生活
を送っていただくためです。(もし、それも行なっておられてのあの処方度数でした
ら、日によって眼が変わったのでしょう。私の失礼をお許しくださいませ。)
岡本隆博様
2003.4.19 稲葉眼科院長 稲葉昌丸
当科眼鏡処方箋を修正してくださった件、ありがとうございます。
詳細な経緯を説明していただき、大変勉強になりました。
当科スタッフにも回読させております。
両眼開放屈折検査の必要性は以前から感じていたのですが、導入するに
至っておりませんでした。今回のような明瞭な事例を示していただいて、
当科でも早期に開始しようと決心いたしました。
岡本様のような眼鏡店であれば、参考データのみ示して眼鏡処方をお願いしてしまう
方が良いのかもしれません。眼鏡作製依頼というより、眼鏡処方専門クリニックに
紹介するということですね。
今のところ当科では特定の眼鏡店に紹介することはしない、という
方針を取っておりますので、
不特定のレベル不明の眼鏡店を考えて当科
なりに努力した眼鏡処方箋を発行しています。
それゆえ、処方変更の必要があった際には当科で費用負担を行なっている
のはご存じの通りです。
当科の眼鏡処方技術も向上させていきますが、不特定眼鏡店相手の
処方箋と、信頼できる眼鏡技術者への紹介状、というものを分けて
考えた方が良いのかもしれません。
今後、考えるべき課題だと思います。
今回の件はいろいろな点で参考になりました。
ありがとうございます。 |
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まじめな医師ほど損をする
岡本隆博
医師に限らず、弁護士でも公認会計士でも、まじめにやる人ほど収入はあまり増え
ない、というのが専門職のひとつの宿命だと言えよう。
眼鏡処方箋を発行して、それで苦情が来て再処方した場合に、自腹を切ってレンズ
代を弁償しようという眼科医はまれである。それで、稲葉医師のようにまじめにそれを
行なう人は損をする。
しかし、考えてみれば、処方した薬が効かなくて別の薬を処方した場合に、その費
用を医師が負担するということはない。それは実は、費用の多寡の問題ではなく、薬
の処方は純然たる医療であるから、医師は結果責任を負う必要がないからである。逆
に言うと、眼鏡処方において、それをなしたときに特にミスをしたというのでもない
が、測ったときの体調が一時的に違っていたのかもわからず、とにかくユーザーが不
具合を訴えており、さらに良さそうな度数に変えることになった、というような場合
にでも、処方者がそのレンズを弁償するというのであれば、それはもはや専門職の人
間がなすことではなく、その善し悪しは別として、それはサービス職のやりかたである。
今後の医療においては、サービス業としての発想や姿勢も取り入れていかなければ
ならないのは確かではあるが、それは医師がサービス職の人間になるということとは
違う。サービス職の人間とは、たとえば、西洋のホテルの従業員のうちでチップだけ
で生活している部門にいる人間のような存在で、ただ顧客の満足感でのみ収入の多寡
が決まるという性格の職業である。
処方箋が悪い業者を助ける
稲葉医師が、眼鏡処方をすべて医療だとみなしておられるのならば、それで苦情が来
た場合に、一方的な処方者側のミスであると見なせる場合(そういうケースは少ない
と思う)以外は、再処方のときのレンズ代金を弁償をする必要はない、すべきではな
いと私は考える。
もし、処方者に特に落ち度はなかったと思われる場合でも、処方者(あるいは処方
者側の事業主体)がレンズ代の弁償をするのが妥当であるとの考えをお持ちなのであ
れば、再処方のときにレンズ代金を医師が弁償することになるような眼鏡処方は医療
ではないから、そういうものは眼鏡店に委ねるべきなのである。
それは分るが、眼鏡店にもいろんなレベルの店があるから心配だということであれ
ば、単に「どこかのメガネ屋で度数を決めてもらいなさい」と突き放すのではなく、
参考として全矯正度数を示し、さらに処方度数とそれに至る経緯などを報告してもら
いたい旨を書いた「眼鏡調製指示書(依頼書)」を渡すとよい。
それを受け取った眼鏡店の中に「そういう報告をしないといけないのなら、自店で
は処方はできません。他の眼科で処方箋をもらってきてください」と断わる店や、あ
るいは、自店で処方調製はしたが報告をさぼる店などがあれば、そういう店はブラッ
クリストに載せて、処方箋を患者さんに渡すときに、そのブラックリストも一緒に渡
せばよいのである。
多くの眼科がそのようにすれば、程度の低い店は次第に眼科発行の眼鏡処方箋とは
縁が薄くなっていく。
現状はその逆で、技術レベルの低い店(安売り店やファッション指向の強い店にと
きどき見受けられる)ほど眼科処方箋を歓迎する。度つきのメガネを通販で売る店
も、当然ながら眼科の眼鏡処方箋を歓迎する。
なぜなら、そういう店はもともと眼鏡処方の自信がなく、処方箋による調製なら自
店での測定の手間が省けて、見えにくさの苦情が来ても「眼科で相談してください」
と言えば済むから楽なのである。
メガネの技術や商品知識はみなつながっているから、たとえば、眼鏡処方はへただ
けど、適切なレンズ選びやフィッティングは上手というのは考えにくい。 だから、
どこの眼科の眼鏡処方箋も歓迎と打ち出している店は技術的には要注意と見てよさそ
うで、眼科が相変らず眼鏡処方箋を発行し続けるということは、間接的に技術の低い
店を助けることになる。
そして、逆に眼科の眼鏡処方箋は、技術の高い店を困惑させることになるケースが
多いのである。
●
稲葉医師が本当に再処方のレンズ代金を弁償なさるのであれば、その旨を眼鏡処方箋
に記載しておかれるのがよいと思う。
そうすれば、それを見た眼鏡店の人で、処方度数などに疑問を感じたとしても、安
心してそのとおりの度数でメガネを作るだろう。
なぜなら、再処方の場合にレンズ代を弁償する眼科はマレな存在で、処方箋に従っ
て作ったメガネでうまくいかない場合で、その原因が度数にあった場合には、いまの
我国では、たいていは次の4つのうちのどれかになるからである。
1.眼鏡店に相談を掛けて「眼科でご相談を」と言われて、眼科へは気おくれして
苦情を持っていけない。
2.眼鏡店で再測定してレンズを入替える。レンズ代は店が負担する。(商売的な理由から)
3.眼科へ言って再処方を受ける。商売上の理由で(アフターサービスの一環として)店は
無料でレンズを入替える。(眼科から店に無料入れ替えの依頼電話が入る場合もある)
4.眼科で、他のどういう度数に変えればよくなるかがはっきりわからないので、
うやむやですます。(ここから1になる場合、ユーザーがあきらめるケース、消費者
センターへ相談するケースなどがある)
これ以外の場合もあるが、とにかく、真面目な眼鏡店、顧客には快適なメガネを掛
けてほしい、あとあとのフォローもきっちりしたいと思う店、眼鏡処方に自信を持つ
眼鏡店ほど、眼科処方箋での眼鏡調製を喜ばないものだ。あとのことを考えると気が
重くなる。
逆に、売ってしまえばあとはどうでもいいという店ほど、どこの眼科のものでも眼
鏡処方箋は大歓迎なのである。 そこまで知って眼鏡処方箋を発行しておられる眼
科は、我国にいったいどれくらいあるのだろうか。 (了) |
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