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[一調一析] 改訂価格表示ガイドラインの効果は? 岡本隆博
新しいガイドライン
まず眼鏡新聞(2002.12.13)から転載し、あとで論評する。
(要旨または原文のまま引用。下線と番号は評者による)
《公正取引委員会(以後、「公取」と略す)は、平成12年6月に価格表示ガイド
ラインを策定公表したが、依然として不当な価格表示があるという声に応えて、家電
や眼鏡などのチラシを調査して、平成14年12月5日に、価格表示ガイドラインの
一部改訂を明らかにした。その改訂部分は以下のとおり。
第4 二重価格表示について
3 希望小売価格を比較対象価格とする二重価格表示について
(1)基本的考え方
イ なお、希望小売価格に類似するものとして、製造業者等が参考小売価格や参考
上代等の名称で小売業者に対してのみ呈示している価格がある。
これらの価格が、小売業者の小売価格設定の参考となるものとして、製造業者等が
設定したものをカタログやパンフレットに記載するなどして当該商品を取り扱う小売
業者に広く呈示されている場合(製造業者が商談の際に当該商品を取り扱う小売店の
一分の問い合わせに対して個別に呈示するような場合は含まない)には、小売業者が
当該価格を比較対照価格に用いて二重価格表示を行なうこと自体は可能であるが、希
望小売価格以外の名称を用いるなど、一般消費者が誤認しないように表示する必要がある。
また、参考小売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行なう場合に、製造業者
が当該商品を取り扱う小売業者に小売業者向けのカタログ等により広く呈示している
とはいえない価格を、小売業者が参考小売価格と称して比較対照価格に用いるときに
は、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあ
る。〈1〉
(2)不当表示に該当するおそれのある表示
希望小売価格を比較対照価格とする次のような二重価格表示は、不当表示に該当す
る恐れがある。〈2〉
カ @参考小売価格等が設定されていない場合に
任意の価格を参考小売価格等として比較対照価格に用いること、及びA製造業者等が
当該商品を取り扱う小売業者の一部に対してのみ呈上した価格を、参考小売
価格等として比較対照価格に用いること。
(事例)
・A眼鏡店が「78%OFF メーカーセット参考小売価格33000円の品、レ
ンズ付7000円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一のレンズとフレー
ム一式の商品について、メーカーは参考小売価格を設定していないとき。
・A眼鏡店が「ブランドフレーム 参考小売価格¥34000→¥5000、85
%OFF」と表示しているが、実際には、メーカーとの商談の際に、A眼鏡店を含む
当該商品を取り扱う小売店の一部の問い合わせに対して、メーカーから呈示された価
格を、参考小売価格として比較対照価格に用いたものであるとき。〈3〉
なお、公取では今後も価格表示ガイドラインを事業者等に対し十分周知することに
より、違反行為の未然防止を図るとともに、景品表示法に違反する価格表示に対して
は厳正に対処するとしている。》
これは法律ではない
この改訂ガイドラインの下線部〈3〉に関しては、これまでこの点があいまいで
あったが、今回このように明確にされたということは、一つの大きな収穫だと言えよう。
しかし、ここで留意しておきたいことがある。それは何かというと、これは法律で
はないということである。
公取という行政機関が業者を「指導」するときのガイドラインにすぎないのである。
だから、たとえば、根拠の非情に不明瞭な「メーカー参考小売価格」をチラシに掲
載したとしても、ただちに違法行為となるわけではないし、さらに、下線部
〈1〉〈2〉に示すように、あくまで「おそれがある」と言っているだけであり、こ
ういう行為は違法であると断定しているわけでもない。ゆえに、根拠の不明確な
「メーカー小売参考価格」を広告に用いることは、2重に違法行為であることから距
離を置いているのだと言わざるを得ない。
しかし、考えてみると、 下線部〈2〉の直後の「カ」の@などは、明らかに不当
表示、というよりも、むしろ虚偽表示である。
これでさえも「不当表示と見なす」と言わずに「おそれがある」としか言わないの
は、いったい何故なのか。
それは、ひとつには、行政機関が自身の裁量権を留保しておきたいということがあ
ろう。すなわち、シロかクロかはっきりわからないことに関して、「お役人様、これ
はいかがなもんでしょうか」とお伺いを立てさせ、それに対して徐(おもむろ)に回
答を下す、というところに、お役人さまの存在価値があるというわけである。
それから、仮に公取が取り締まりの手ぬるい点を指摘された場合に、ガイドライン
で 「不当表示なり」と断定していなくて「おそれがある」にしてある方が責任追及
を強くされにくいということもあるのかもしれない。
我が国は、形式的名目的には三権分立の民主国家であるが、実質は行政権が他の2
権を簒奪してしまっている官治国家だと言う。(小室直樹)
だから、もし公取が、このガイドラインを作ったは良いが、実際にこれでもって行
儀の悪い業者に対して厳しく細かく取り締まりをしなければ、実効性はかなり薄く
なってくる。
これまでに公取が、この業界で明らかに不当な、あるいは虚偽の表示をなした業者
に強く警告を与えたという話も聞こえて来ないし、その名前をマスコミなどに広く報
道したという話も聞いたことがない。
公取の下請けみたいな、この業界の眼鏡公正取引協議会(以下、眼取協と略す)
が、ガイドラインを盾にして業者に「不当表示の恐れがある」と注意をしてみても、
「フン」と言われたらそれでおしまいであろう。
その場合に、けっこう効果がありそうなのは、眼取協のホームページに、その不当
表示をなしている店の名前を公表することである。
それでもしも、眼取協がその店に対して「言うことを聞かなければ、ウチのホーム
ページでそちらの店の名前を公表しますよ。いいですか」と強く出たとして、そう言
われた店が「そんなことをしたら営業妨害で訴えますよ」と言うかもしれない。
そうなると、眼取協は任意団体で法人格がないので、眼取協という団体を相手取っ
た訴訟は起こせないから、眼取協の会長である渡辺昭男氏を相手取った訴訟となる。
では、渡辺氏はそういうリスクまでしょって、ガイドラインに照らすと不当表示だと
言えそうな業者の名前を眼取協のホームページに公表できるだろうか。
あるのか、ないのか、ドッチ?!
それはやはり望み薄だと私は思う。しかし、そうかと言って、そういう公表を業界
の中だけで行なっても効果は薄い。そういうものは一般社会に向けて公表してこそ効
果は出るのだ。
なのにそれができないとなれば、あとは、商品の供給元であるメーカーが毅然とし
た姿勢で臨むしかないであろう。
すなわち、商品を小売業者に供給しているメーカーさんは「安く売ろうが高く売ろ
うが、それは小売店の自由だが、ウソの『メーカー参考小売価格』などの表示はしな
いでほしい。それがあれば当社は、以後、商品の供給はできません」ということを名
言してほしいのである。
もちろん私は、メーカーに対して、メーカー希望小売価格、メーカー参考小売価
格、メーカー参考上代などという価格を設けてはいけないと言っているのではない。
たとえ、小売組合などが、そういうものを設けないでほしいとメーカーに要望をし
たとしても、それを設けるか設けないかは、各メーカーの自由である。
しかし、メーカーとしては、それがないと困るという小売店が実際には多いのだ
が、建前としては「設けないでくれ」と言われるものだから、どちらにも顔を立てる
ような形で、そういう価格があるようなないようなことにしてしまいがちである。
だから実際のところ、それがあるのかないのかということがハッキリとわからない
メーカーが多い。ここがあいまいであれば、このたびせっかくできた新しいガイドラ
インが、ほとんど無意味になってしまう。私は、この現状を腹立たしく思う。
それが「ある」のなら、それをチラシに書いて、そこからいくらいくら安くするい
う広告をしてももかまわないのだから、私としては、そういう商品はなるべく仕入れ
るのを控えたい。逆に、そういう価格がないのであれば、チラシでの二重価格表示は
されにくいわけだから、そんな商品は歓迎である。
ところが、この業界のメーカー(特にフレーム)の商品には、そんな小売価格があ
りそうだが、よくわからないというのが多い。
たとえば、枠のカタログに符丁のような数字で参考小売価格らしきものを呈示して
いるフレームメーカーがある。そのメーカーの枠も、ときどき量販店のチラシで二重
価格表示がなされるのだが、この符丁で示された価格らしきものはいったい何なんだ
ろう……。と思った私は、そこのメーカーに直接たずねてみた。